電通<4324>が発表した「日本の広告費」によると、2012年の総広告費が前年比103.2%の5兆8913億円となり、5年ぶりに前年実績を上回った広告業界。東日本大震災の反動増や、インターネット広告が堅調に伸びているなど好調な要因は複数あげられるが、中でもスマートフォン広告の伸びは端末の普及と相俟って著しいものがある。
サイバーエージェント<4751>の子会社であるCyberZが、シード・プランニングと共同で実施したスマートフォン広告市場動向調査によると、2012年のスマートフォン広告市場規模は856億円となっている。これは2011年の249億円と比較すると343.8%にも上る金額であり、その急拡大が一目瞭然である。従来、PCやフィーチャーフォン向けサービスを提供していた事業者が、スマートフォンでのサービス展開を本格化したことがその大きな要因となっているという。同調査では、2013年のスマートフォン広告市場規模は前年比136.2%の1166億円と、成長は鈍化するものの引き続き市場は拡大すると見られており、2016年には2000億円規模に、2017年には2200億規模に達すると予想されている。しかし広告関連業界全体が比較的堅調に推移しているかと言えば、そうではないようである。
帝国データバンクが実施した広告関連業者の倒産動向調査によると、2012年の広告関連業者の倒産件数は、前年比9.9%増の222件でとなっている。リーマン・ショックの影響から倒産件数が過去最悪となった2009年以降、減少傾向が続いていたが、一転して3年ぶりに増加した形である。帝国データバンクでは、東日本大震災により直接(物理的損傷等)・間接的に被害を受けたことが取材で判明した企業倒産を「東日本大震災関連倒産」と定義している。その東日本大震災関連倒産は2012年に倒産した222社中、1割超の25社にのぼっており、「景気の浮沈の影響が遅行して表れるといわれる広告業界において、2012年は長引く不況や東日本大震災による受注減少が尾を引いている」としている。しかし間接的なものまで含めると、東日本大震災の影響を受けていない企業の方が少ないのではないだろうか。また、業態別に見ると「広告制作業」が前年比18.1%増と増加が目立っている。さらに、負債総額は前年比2.8%減の176億1700万円と、ここ2年は縮小傾向が続いており、小規模倒産が増加しているという。広告制作業とは、日本標準産業分類によると、主として印刷物にかかる広告の企画、制作を行う事業所のことである。となると、「主として印刷物にかかる広告を手掛けていた小規模な事業所」が多く倒産しているということになるのではないだろうか。広告業界が印刷物からインターネットへと主戦場を移す中、その流れに乗り切れなかった企業の淘汰が進んでいると見るべきであろう。
中には確かに東日本大震災が大きな要因といえる倒産も存在するであろう。しかし、広告媒体の急速な変遷の時期と震災が重なっただけであり、震災関連倒産に分類するには無理があるケースも少なくないはずである。震災の影響を大きく見せる必要がどこかにあり、それに沿った情報発信がなされているのかもしれない。(編集担当:井畑学)