デジタル化で動き出す近未来の屋外広告

2013年02月11日 18:17

 最近、駅のコンコースや百貨店、公共施設の一角で、液晶画面の「動く広告」デジタルサイネージを見かけることが多くなった。キャンペーンやイベントの告知、お買い得情報のおしらせ、交通情報のインフォメーションなどなど、動画で目を引き、見る人の五感に訴える電子看板・デジタルサイネージは、これからの広告媒体として大きな注目を集めている。

 デジタルサイネージが急速に普及している大きな理由としては、とにもかくにも動画や音声付きの広告が従来のポスターよりも断然、通行人の目を引きやすく、インパクトが強いことにある。そして、双方向通信が可能なので、タイムリーな情報が配信できるのも大きな強みだ。例えば、2010年に開催されたサッカーW杯南ア大会の開催期間中には、ナイキがデジタルサイネージを用いて試合結果を速報で流したことでも話題となった。

 さらに、液晶ディスプレイの価格低下と高品質化も強力な後押しとなってため、各方面の施設でも一気に導入しやすくなってきているようだ。また、これまでは小型や中型の液晶が多く利用されていたが、先日もシャープ が大型・高輝度の90V型インフォメーションディスプレイの販売を開始するなど、更なるインパクトを求めた商品開発も積極的に行なわれている。屋外広告に強い米広告代理店のクリア・チャンネルが「多くの国では、2019年までに屋外広告の90%がデジタルになるだろう」と予測しているほど、デジタルサイネージはこれからも益々、シェアを伸ばすことが期待されている媒体なのだ。

 とはいえ、不況で苦しむ広告代理店が大きな期待を寄せているのはデジタルサイネージだけではない。最近、急速に認知度が高まり、デジタルサイネージよりも大きなインパクトを与えているものに「プロジェクションマッピング」というものがある。プロジェクションマッピングとは、ビデオやCGなどの映像を、プロジェクターで建造物などの立体物に直接投影するもので、投影する距離や角度を緻密に計算することで、あたかも物体そのものが発光していたり、形が変わったり、透けたりしているかのように見せる表現手法だ。デジタルサイネージのように、常設で行なえるものではないし、ある程度大規模なものに投影しないと効果は薄いが、それでも仮想世界と現実世界が混沌としたような空間演出には思わず魅入ってしまうほどだ。

 実は、以前から存在していた手法ではあるが、現代アート的なものと捉えられてきたため、一般で目にする機会は少なかった。ところが、ここ数年で、欧米でイベントや商業施設の広報に利用されることが増え、日本でもビジネスへの利用に対する関心が高まってきている。また、プロジェクションマッピングのように今後注目される広告手法の一つとして、昨年11月には服飾雑貨のユナイテッドアローズ が面白い試みをしている。

 同社は、マイクロソフトのKinectセンサーを活用したマリオネット・ロボットを同社の渋谷マークシティ店に設置した店頭イベント「Marionettebot 恋するマリオネット」を開催した。ショウウィンドウの前に人が立つと、Kinectセンサーがそれを感知し、その動きに合わせてマネキンが人の動きを真似る。インタラクティブなマリオネット・ロボットを使ったこの広告手法は大きな注目と話題を呼んだ。また、イベントにあわせて、世界観を描いたスペシャルムービーを特設サイトで公開するなど、WEB展開も連携して行っている。近年では珍しくもなくなったWEB展開だが、それでもインパクトのある屋外広告と連携させることで、注目度は高まり、ブランディング戦略には絶大な力を発揮する。

 面白いのは、これらの新しい広告はすべて「動いている」ということだ。チラシやポスター、マネキンなど、これまで静止した状態で使われていたものが、デジタルの力を借りて一斉に動き出した。自動販売機が接客の言葉を発し、マネキンがショウウィンドウの中で笑顔を振りまく。プロジェクションマッピングで彩られた施設の中では、デジタルサイネージの画面がせわしなく切り替わって、軽快な音楽が流れだす。そんな賑やかな未来が近い将来、やってくるのかもしれない。(編集担当:樋口隆)