NEDOと日立製作所、次世代HDDに向けた基本技術を開発

2010年11月11日 11:00

 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と日立製作所 <6501>は、HDDの開発・製造会社である日立グローバルストレージテクノロジーズの協力を得て、従来の磁気記録方式の限界を超え、HDDの記録密度を飛躍的に伸ばす方式として期待されている、「マイクロ波アシスト磁気記録方式(マイクロ波アシスト記録)」の基本技術を開発し、その原理を実験的に確認した。

 マイクロ波アシスト記録では、記録媒体の小領域にマイクロ波帯の高周波磁界を加え、磁気情報の書き込みを容易にすることが可能だが、今回開発されたものでは、ヘッドに搭載可能な高周波磁界を発生するスピントルク(磁性体/非磁性体/磁性体で構成される積層体に電流を印加したときに、流れるスピン流によって二つの磁性体がお互いに磁化の方向を変えようとする力)発振素子を用いて、記録媒体上に磁気情報を記録できることが実験的に確認している。

 これまで外部のマイクロ波発生装置を用いたマイクロ波アシスト効果の報告例はあったが、今回、微細な発振素子を用いた磁気情報の記録を確認できたことにより、将来、この素子を記録ヘッドに搭載し、マイクロ波アシスト記録を実用的に行える可能性が示されたことになる。この成果の一部は、NEDOが推進する「超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト)」の一環として得られたものである。

 IT社会の急速な進展に伴い、HDDは企業や公共機関の大規模データベース、PC、ハードディスクレコーダーをはじめとするデジタル民生機器の記録・再生装置など、これらを支える大容量ストレージとして不可欠なものとなっている。さらに、データセンターなどで扱われる情報量の増加に伴い、消費電力の増大が問題視される中、HDDの高密度・大容量化は装置の小型化などに寄与することから、省エネルギーで環境に配慮した社会を実現する重要技術として注目されている。

 このような背景の中、近年、次世代高密度垂直磁気記録の一つとして、1平方インチあたり1テラビット以上の記録密度を実現するマイクロ波アシスト記録の研究開発が進められている。マイクロ波アシスト記録は、磁気共鳴現象(軸が傾いて回転する歳差運動は、外部から加えた電磁波または振動磁場の周波数が一致したとき、より増幅され、回転運動の軸の傾きが大きくなるが、このように、磁性体の磁化が特定の周波数に対して一種の共鳴を起こす現象)により記録媒体の磁化を局所的に反転しやすくし、磁気情報を記録する方式だ。従来、計算機シミュレーションを用いて、このマイクロ波アシスト記録の原理、効果などが示されており、外部装置からマイクロ波を印加して磁性体の磁化反転を確認した報告例はあるが、実用化のためには、高周波磁界を発生する発振素子を微細化し記録ヘッドへ搭載しなければならないという課題があった。

 そこで今回、NEDOが推進するプロジェクトのもと、日立は、十分に強い高周波磁界を発生することが可能なスピントルク発振素子を開発し、これを垂直磁気記録媒体と組み合わせて原理検証を行なっている。

 その技術内容だが、まずひとつめは、磁化の方向が固定された固定層と自由層からなる積層した磁性体に電流を流すと、固定層磁化の作用により分極した電子スピンが自由層に流れ、この電子スピンからのトルクを受けて、適切な条件下では自由層の磁化が一斉に回転する。この状態を「スピントルク発振」と呼び、このとき自由層からアシスト記録用の高周波磁界が発生する。今回、開発したスピントルク発振素子では、10ギガヘルツ帯の高周波発振現象を確認している。

 次に、発振素子と記録媒体によるアシスト効果の実験的検証が行われた。マイクロ波アシスト記録では、高周波磁界によるアシスト効果により、弱い記録磁界で記録媒体の磁化の反転が可能になる。試作したスピントルク発振素子を、垂直磁気記録向けの記録媒体と組み合わせてアシスト記録効果の検証を行なったところ、記録媒体に磁化反転が発生しない弱い磁界を印加した状態で、記録媒体上に近接させた素子をスピントルク発振させ、その直下の記録媒体の磁化を局所的に反転させ、磁化情報の書き換えができることを確認している。

 これらの結果は、「高周波発振素子から発生するマイクロ波を用いたアシスト記録方式が原理的かつ実験的にも実現可能であることを示しており、また、このマイクロ波アシスト記録の原理を用いることで、1平方インチあたり3テラビットの記録密度が実現可能であることを計算機シミュレーションにより確認できた」としている。

 この成果の詳細は11月14日から18日まで米国アトランタで開催される磁気記録に関する国際学会「55th MMM Conference」にて発表される予定だ。
(編集担当:加藤隆文)