急速な高齢化の進行に対応し、高年齢者が少なくとも年金受給開始年齢までは意欲と能力に応じて働き続けられる環境の整備を目的として、高年齢者雇用安定法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律)が8月に成立、平成25年4月1日から施行される。
今回の改正の一番のメインは、継続雇用制度の対象となる高年齢者につき、事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みを廃止することであろう。現行法においても、定年の引き上げか、定年の定めの廃止、若しくは継続雇用制度の導入のいずれかを実施することが義務付けられている。しかし現行法上は「継続雇用制度の導入」をしていた場合、労使協定があれば希望者全員を対象としない制度とすることも可能であった。これが改正後は、希望者全員を対象としなければならなくなったということである。厚生労働省の改正概要において、この改正は個々の労働者の雇用義務ではなく、定年の65歳への引き上げを義務付けるものでもないとしている。しかし今改正前の平成16年改正高年齢者雇用安定法のリーフレットにおいて「65歳までの定年の引上げ等の速やかな実施を!!」と表紙に掲げていることや、労働者が希望するだけで継続雇用の対象としなければならないこと、過去一年間の定年到達者約43.5万人のうち、労使協定の定める基準に該当せず離職した割合は1.8%に過ぎないことなどを考えると、実質的には65歳定年制を推奨する制度であり、その傾向を強めたものと言える。
これを受け、大和ハウス工業が定年年齢を65歳にまで引き上げると報じられ、サントリーも65歳定年制を導入すると発表するなど、大企業は徐々に対応を発表。厚生労働省が発表した平成24年「高年齢者の雇用状況」集計結果によると、65歳定年制に限らず、雇用確保措置の上限年齢について、法の義務化スケジュールより前倒しして65歳以上を上限年齢としている企業(定年の定めのない企業を含む)は前年比1.3ポイント上昇の92.1%となっている。しかし、高年齢者雇用確保措置を「実施済み」の企業の割合は中小企業が97.0%であるのに対し、大企業は99.4%と大企業の方が積極的な取り組みをしている一方で、希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合は中小企業で前年比1.0ポイント上昇の51.7%であるのに対し、大企業では同0.5ポイント上昇の24.3%に留まるなど、中小企業の取り組みの方が進んでいる。大企業になればなるほど、法の要請を満たす程度の制度は整っているものの、それ以上の取り組みは実施されていない現状がうかがえる。
東京商工リサーチによると、2012年1月以降8月末時点で希望退職および早期退職者募集の実施を情報開示した上場企業は、具体的な内容を確認できた企業が50社に達し、前年(1月-12月累計58社)を上回る水準で推移。総募集人数は、日本電気、シャープ、ルネサスエレクトロニクスなど大手電機メーカーが相次いで募集に踏み切ったことで1万5174人を数え、3年ぶりに1万5000人を超えたという。この数字は、前年の8623人と比較すると1.7倍である。大企業であればある程、人件費は多大である上、こうした現状を目の当たりにして、65歳定年制の導入や希望者全員の雇用を約束することに二の足を踏んでいるのであろう。
厚生労働省のデータによると、15歳から24歳までの完全失業率は9.4%。平成24年版子ども・若者白書によると25歳から29歳の失業率も6.3%と、平成23年の全年齢計失業率は4.5%に対して、軒並み高い水準となっている。求職者支援制度による職業訓練を受けた人でも3割は就職が出来ていないのが現状である。こちらの対策も急務だと叫ばれて久しい。一つのイスを高齢者と若年者で奪い合っていると言えるであろう。となれば、実質的に65歳定年制を推進する制度の下に継続雇用を求める高年齢者と、安価な労働力を「補助金を受けながら一定期間確保する」ものとも言える若年者トライアル雇用制度などの施策の下で求職をする若年者とでは、高齢者の方が圧倒的に有利ではないだろうか。
少子高齢化に伴う労働人口の減少や高齢者の持つ高い技術を若年社員に伝承する必要性、年金の支給年齢が引き上げられ、従来の主流となっていた60歳定年制では年金の受給までに5年間のブランクが出来てしまうことなど、高齢者継続雇用の必要性の要因は多々あげられる。しかし、本改正を代表とするその対策の順序や方法は、あまりに近視眼的なものと言わざるを得ないのではないだろうか。