スマートフォンの普及により、コンパクトデジタルカメラの市場が今、大きな岐路に立たされている。
スマートフォンやタブレットに搭載されているカメラ機能の発展や、それに付随するガジェットやアプリの進化が目覚しく、これまでのように単純に画質だけを追求したデジカメでは消費者から物足りなさを感じられてしまうようになっているからだ。メーカーの中にはすでに、オリンパス<7733>のように低価格のコンパクトデジカメからは撤退し、デジカメ事業を人気のあるミラーレス一眼の製造に集約して建て直しを図る企業も現れ始めている。
撤退をしないのであれば、選択肢としては、スマホやタブレット以上の付加価値を提供して単価を上げていくか、低価格のまま動画対応を進めていくかの2択しかない。
現在の流れとしては、ソニー<6758>、富士フイルム<4901>、ペンタックスリコー、などが高級志向へ、そしてキヤノン<7751>、パナソニック<6752>、カシオ<6952>が動画対応を推し進めているようにみえる。とくに、コンパクトデジカメ市場でトップシェアを誇るキヤノンは、話題のミラーレス一眼でも高いシェアを得ていることから、商品の棲み分けという意味でもコンパクトデジカメを維持したい考えのようだ。
4月25日に同社がリリースした「PowerShot SX280 HS」(以下SX280)は、その意思を明確に宣言するかのように「動画コンパクト」を前面に押し出したモデルとなっており、公式サイトでも、デジカメとしての画質云々を打ち出してはおらず、動画性能中心に展開する熱の入れようを見せている。
動画はMPEG-4 AVC/H.264で、1,920×1,080ドット、60フレーム/秒のフルHD撮影が可能となっており、ファイル形式はMP4。光学20倍ズーム(35mm換算25~500mm)のレンズを備え、光学式とDIGIC 6による電子式補正を組み合わせた5軸手ブレ補正を採用している。その上、無線LANやGPSも搭載しており、もはや低価格コンパクトデジカメで期待される動画撮影の域をはるかに超越したスペックとなっている。現時点でSX280の実勢価格は2万5千円程度だが、同価格帯のデジタルビデオカメラと比較しても全く遜色のない性能だ。
もちろん、スマホやタブレットがいくら性能が良くても、動画撮影機能に限っては、現状でここまでのものはない。
さらにキヤノンでは、6月7日に最新ファームウェア Ver.1.0.2.0を公開しており、動画撮影中に光学ズームしたときの消費電流を軽減して、動撮影可能時間を約20%も増やすことに成功した。
デジタルビデオカメラ市場でも、最近は低価格帯でもGo-pro社のGo-pro HERO3や、ソニーのアクションカムHDR-AS15など、持ち運びたくなる小型のカメラが話題を呼んでいるが、コンパクトデジカメがSX280のように動画の進化を遂げていけば、それらの製品とも渡り合えるだろう。もしかすると、スマホの普及で立場が脅かされるのは、コンパクトデジカメではなく、家庭用デジタルビデオカメラの方かもしれない。(編集担当:藤原伊織)