今週の振り返り 見送り気分一転、円安進行で9700円台乗せ

2012年12月15日 10:36

EF2C5966

ミサイルが飛んでも国内経済指標が悪化しても、円安は株価を押し上げる最大の好材料。

 ミサイルが飛んでも国内経済指標が悪化しても、円安は株価を押し上げる最大の好材料。

 週明け10日の東京市場は前週末の海外経済指標を反映した立ち上がり。7日に発表されたアメリカの雇用統計は失業率が7.7%、非農業部門雇用者数が14.6万人増と市場予測を超えて改善し、NYダウは81ドル高。9日に発表された中国の経済統計はおおむね景気後退のペースダウン、底入れ近しを示した。朝方の為替はドル円は82円台後半で、ユーロ円もイタリアのモンティ首相の辞意報道によるユーロ安からすぐに戻して106円台後半。円安基調が続き、始値は57.07円高の9584.46円で前週の高値を超えた。

 しかし、上値は重くすぐ上げ幅圧縮。それでも午後1時過ぎまでプラス圏内で推移したが、後場は前日終値をはさんで浮いたり沈んだり。始値が最高値になる「寄り天」の尻すぼみで、終値は6.36円高の9533.75円だった。値上がり銘柄より値下がり銘柄のほうが多く時価総額の大きい大型株の下落が目立ったため、TOPIXはマイナスで引けた。

 前場から経常収支、7~9月のGDP2次速報、法人企業景気予測調査、消費動向調査、工作機械受注速報、景気ウォッチャー調査など国内経済指標が続々と発表されたが、悪くても市場はほぼ無反応。最近の株高は「追加金融緩和期待と円安が背景の金融相場」という見方を裏付けた。売買代金は9444億円と7日ぶりに1兆円の大台を割り、総選挙前の見送り気分が漂っていた。

 上昇セクターは非鉄金属、半導体関連、金属製品、不動産などで、コマツ、アドバンテスト、武田薬品工業、信越化学の上昇が目立ち、ファーストリテイリングも買われた。情報・通信はNTTドコモは上昇し、KDDI、ソフトバンクは下落。下落セクターは証券、電力、海運などで、野村HD、三井住友FGが下げ、電機のシャープ、パナソニック、ソニーは揃って下落。輸出関連株のホンダ、キヤノンも売られた。

 公正取引委員会が一部店舗の譲渡を条件にベスト電器の買収を認めたヤマダ電機は、「8店舗譲渡」という条件は「多い」と受け止められたか18円安。半導体材料のSUMCOは通期見通しの最終利益を下方修正しながらストップ高の気配値がどんどん切り上がり、終値は100円高(+17.24%)で値上がり率1位に入った。

 週明けのNYダウは14ドル高だったが朝方の為替はやや円高で、11日の東京市場は23.15円安の9510.60円と安く始まった。日経平均は9500円を一時割り込んだが値幅は前日終値の下の約50円の狭いレンジで推移した。大引けにかけて上昇し終値は8.43円安の9525.32円。売買代金は8783億円と9000億円を割り込む。火曜日でもありFOMCやメジャーSQや総選挙をにらんだ見送り気分の薄商いが続いた。

 上昇した業種は水産・農林、小売、ガス、非鉄金属など。ゲーム関連のDeNA、グリー、コナミが盛んに買われ、ファーストリテイリングは前日に続き年初来高値を更新し株価2万円に迫った。下落した業種は海運、電力、機械、保険、不動産など。自動車株のトヨタ、日産、ホンダは揃って下落。中国関連のコマツ、ファナックも下げた。

 原子力規制委員会が「地下に活断層が存在する可能性が高い」と表明して敦賀原発廃炉による日本原子力発電の経営継続困難が現実味を増し、大株主で債務保証もしている各電力会社が揃って下げた。逆にシャープは三菱UFJ信託銀行とみずほ信託銀行が合計約200億円を追加融資し、りそな銀行も200億円の融資を検討中と伝えられ14円高。売買高2位、売買代金1位とにぎわった。SUMCOは証券会社の投資判断の引き上げが効いて続伸。ヤマダ電機に買収されるベスト電器が値上がり率2位。前日、政府系ファンドの産業革新機構と製造業8社から最大2000億円の出資を受け入れると発表したルネサスエレクトロニクスは、前場で一時43円高まで上げたが後場に下げて終値は1円高だった。

 12月のドイツの景気期待指数がプラス圏に急回復してユーロ高に振れ、FOMCへの期待も入ってNYダウは78ドル高。朝方のドル円は前日並み水準だったが、12日の日経平均は80.93円高の9606.25円と9600円台に乗せて始まった。その後も主力株中心に現物もひろく買われるしっかりした展開で、終始9560~9600円近辺の値をキープした。

 午前10時前に「北朝鮮がミサイル発射」の第一報が流れたが、為替が少し円安になっただけで東京市場にも韓国のKOSPI指数にも特に動きはなく、防衛関連株は第一報直後に反応してもすぐ下落。地政学的リスクは全くの空振りで、市場は「平常心」を保った。

 日経平均終値は56.14円高の9581.46円で8ヵ月ぶり高値。10日と同じ「寄り天」だが後場も9600円台にタッチし下落感はなかった。売買代金はかろうじて1兆円に乗せた。

 買われた業種は不動産、証券、非鉄金属、海運、電機、鉄鋼と、金融緩和がらみと輸出関連株が揃った。円安ユーロ高が進んでキヤノンやニコンが買われ、自動車株ではトヨタ、マツダが上昇。電機では液晶パネル「IGZO」を搭載したスマホが好調と伝えられたシャープが17円高で続伸し、売買代金第1位。パナソニックは旧三洋電機のデジカメ部門を売却すると報じられて30円高で、ソニーは25円高だった。

 売られた業種は4業種だが医薬品、食品、保険とディフェンシブ系。エーザイは30円安、アステラス製薬は100円安。食品ではサントリーの飲料部門の中核子会社の上場が伝えられてアサヒHDが下げ、日本ハムも安かった。

 注目のFOMCの決定は、2013年1月からFRBが米国長期債を毎月450億ドルずつ買い入れ、ゼロ金利政策をインフレ率見通しが2.5%を超えない範囲で、失業率が6.5%程度で安定するまで継続するという内容。NYダウは81ドル高までいきながら引けにかけて下落し、意外にも2.99ドル安で終えた。

 しかし為替レートは朝方、ドル円は83円台前半、ユーロ円は108円台後半まで円安が進んだ。東京市場は日経平均99.74円高の9681.20円でスタートし、前場早々に日経平均は9700円台、TOPIXは800の大台にタッチ。後場はさらに円安が進行してドル円は83円台後半、ユーロ円は109円台に乗せ、日経平均も先物買いが入って9700円台半ばまで上昇した。終値は161.27円高の9742.73円で、9700円台になるのは4月5日以来8ヵ月ぶり。売買高は27億株、売買代金は1兆4895億円と大商いになった。週前半の「寄り天、薄商い」とは正反対に、翌日のメジャーSQを意識してか尻上がりの全面高で、大型株中心に売買も活発な1日だった。

 値上がりセクターは海運、証券、電機、精密、不動産、パルプ・紙、機械などで、円安を好感した輸出関連株と自民党優勢を好感した金融緩和関連株が混在。連騰が続くシャープは15円高で終値を250円に乗せ、売買高、売買代金1位。パナソニックは35円高で売買高3位、売買代金2位、ソニーは53円高で売買代金4位。売買代金3位はトヨタで、ホンダは8位。その間の5~7位は三井住友FG、三菱UFJ、みずほFGの三大メガバンクが占めた。不動産は三井不動産、三菱地所、住友不動産の大手3社が揃って年初来高値を更新した。野村HDが14円高で売買代金8位に入り、大和証券Gは16円高になるなど、証券株が好調だった。

 値下がりセクターは空運、医薬品、電気・ガス、陸運、食品、サービス、小売、情報・通信と内需ディフェンシブ系が揃った。ファーストリテイリングは410円高で株価を2万円台に乗せたが、ローソン、しまむら、ニトリHDは下落した。

 14日は、先物取引、オプション取引両方の特別清算指数が算出される年4回の「メジャーSQ」の日。NYダウは74ドル安。朝方の為替は前日とほぼ同じ水準で、新聞各紙の朝刊一面に選挙情勢の見出しが並んだが「自公300議席」など前週の序盤情勢報道と大差なし。午前8時50分発表の日銀短観は、大企業製造業の業況判断DIは最近-12、先行き-10でどちらも前回の9月の-3から大幅に悪化して市場予測を下回り、どちらかと言えば下げ要素のほうが優勢だった。

 フタを開けてみると、日経平均の始値は39.17円安の9703.56。直後に9700円を割って9687円まで下げたがすぐ押し戻す。午前9時6分頃には9720.36円のSQ推計値が出た。その後、日経平均はじりじり安くなって9700円を再び割るなど日銀短観悪化の影響が現れたが、主力株がしっかりして持ち直す。後場は上海市場の大幅高、円安の進行で日経平均はプラス圏に上昇する。しかし、大引けわずか15秒前に再びマイナスに転じて5.17円安の9737.56円で総選挙前の最後の取引を終えた。TOPIXのほうは1.83プラスの801.04で800の大台に乗せている。メジャーSQで売買高が32億株で売買代金が2兆円を超える久々の大商いになろうと、円安でドル円が84円、ユーロ円が110円に迫ろうと、やっぱり「利益確定売りの金曜日」だった。

 値上がりした業種は電力・ガス、保険、鉄鋼、鉱業、建設、金属製品、機械など。PS三菱など中・小型の建設関連株が値上がり率ランキング10位までに6銘柄も入った。前日にベスト電器の買収を完了したヤマダ電機は買いを集め、終始高値圏で推移し160円高。国内店舗を8店舗手放してもベスト電器の東南アジアの店舗網を手に入れたことが評価されている。前日に解像度がフルHDの4倍の「4Kテレビ」2月発売を発表したシャープは4日続伸で19円高。売買高1位。すでに4Kテレビを発売中のソニーは20円高、東芝は4円高。開発しているが未発表のパナソニックは1円高で売買高7位だった。4Kはまだ非常に高価だが将来に期待できるか。値下がりした業種はその他製品、空運、情報・通信、パルプ・紙、小売と内需ディフェンシブ系が中心。「Wii U」を国内では8日に発売したばかりの任天堂が340円安で値下がり率7位に入ったのが目立った。2日間で30万台が売れたが、市場の関心はすでに薄れてしまったか。

 
 来週の展望 日銀の金融政策決定会合を絶対に見逃すな

 今週は、北朝鮮のミサイル発射待ち、FOMC待ち、メジャーSQ待ち、総選挙待ち、財政の崖待ちなど待ってばかりで、様子見で売買代金が1兆円を割る薄商いになった日もあったが、ミサイルは発射され、FOMC、メジャーSQは終了し、総選挙は16日深夜に開票速報で大勢が判明するので、来週はアメリカの財政の崖の問題だけが残る。

 懸念されるのは、11月15日以来の1カ月で株式市場が「自民党政権復帰」をさんざん織り込んでしまったので、総選挙が日経平均を9700円台に乗せた上昇トレンドの転換点になってしまうこと。自公で300議席に届かないとネガティブサプライズ。予想通りに大勝しても「材料出尽くし感」で崩れると市場関係者が待ち望む「日経平均1万円回復」は遠くなる。株高に貢献した海外の機関投資家の先物買いもクリスマス休暇を前にしてやや鈍りそうで、9500~9700円の間のレンジで推移するか。国内景気はなお悪く、下支えする材料は円安、アメリカの景気回復、中国の景気底入れなどだが、財政の崖問題が議会がクリスマス休暇を返上しても全然先に進まぬ間にヨーロッパから不穏なニュースがもたらされたら、9500円割れもありうる。

 ただ、19~20日の日銀の金融政策決定会合が、20日の白川総裁の記者会見前にサプライズを起こす可能性がある。ブルームバーグが関係者の話として伝えたのは、国内金融機関にほぼ無制限に年0.1%の低利資金を最長4年間供給する日銀の新しい貸出支援制度を、外国金融機関の日本法人や支店も受けられるようになり、国内外のノンバンクさらにはヘッジファンドへの融資も対象になるという、大盤振る舞いの金融緩和策。今週のFOMCの決定に対抗して世界中に日本円をばらまき、「日銀がそこまでやるか」という内容だが、それを総選挙後に誕生する新政権への「ご祝儀」にして日銀法改正の動きをかわす作戦という見方もされている。もしこの話が本当なら、円安はさらに進行しドル円85円台、86円台に軽く乗せそうで、株価へのポジティブインパクトは大。20日以後、待望の日経平均1万円に接近するかもしれない。

 逆に、日銀が資産買入等基金の積み増し程度でお茶を濁すと、FOMCの金融緩和策との落差により80円を割る程度まで円高が進行し、日経平均は9000円を割るというシナリオも語られている。今週の日銀の金融政策決定会合は、絶対に見逃せないイベントだ。

 国内の経済指標は19日に貿易統計、22日にコンビニ売上高が発表される。海外の経済指標は、17日にユーロ圏の貿易収支、アメリカのNY連銀製造業景気指数、18日にアメリカの第3四半期経常収支と住宅建設業者指数、19日にユーロ圏の経常収支、アメリカの住宅着工件数と住宅ローン・借換え申請件数、20日にアメリカのGDP確報値、中古住宅販売、住宅価格指数、景気先行指数、フィラデルフィア連銀業況指数、21日にアメリカのシカゴ連銀全米活動指数、個人所得・消費支出が出る。9月のQE3以来のアメリカの住宅関連指標の好調は続くか。

 19日は「選挙の年2012年」の最後を飾る韓国の大統領選挙の投票日だが、日本では総選挙の結果を受けて政党の分裂や解体や合流や連立参加など政界再編の動きがあわただしくなって、それどころではないかもしれない。(編集担当:寺尾淳)