「愛知目標」というものをご存知だろうか。正式名称は「生物多様性新戦略計画」。2010年に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択されたもので、中長期目標として2050年までに「自然と共生する世界を実現する」事を目標とに掲げ、2020年までに短期目標と20の個別目標の達成を目指している。ところが、内閣府が1919人を対象に行った「自然と共生社会に関する意識調査」によると、残念ながら、言葉の意味を知っているのは、わずか12.8パーセントに留まり、「生物多様性」という言葉すら聞いたことが無いという回答が61.5パーセントにものぼった。
環境省によると「生物多様性」とは、生きものたちの豊かな個性とつながりのこととなっている。つまり、3,000万種にものぼるといわれる地球上の生きとし生けるものは、一つ一つに個性があり、すべてが直接に、あるいは間接的に支えあって生きているという考え方だ。生物多様性条約では、これを「生態系の多様性」「種の多様性」「遺伝子の多様性」という3つのレベルに分けている。
そして今、開発や乱獲による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少、自然の質の低下、外来種などの持ち込みによる生態系のかく乱などの、主に人間活動による影響によって、地球上の種の絶滅のスピードが加速しているというのだ。そのスピードは驚くべきもので、
自然状態の約100~1,000倍にも及び、このままだと近い将来、この地球上から多くの生物が絶滅してしまうかもしれないのだ。そうなると、人間の生活にも大きな影響や歪みが生じるであろうことは想像に難くない。
これを回避するためには、何よりもまず、人間一人ひとりの意識が大切になってくる。しかしながら、前述したように認知度が低すぎて、未だ浸透していないのが現状だ。
このような状況の中、CSRの一環として環境保全に前向きな活動をしている企業の存在が、今後の「愛知目標」の取り組みにおいて、非常に重要なものとなってくる。
たとえば、今年創業50周年を迎えたパナホーム株式会社<1924>では、記念プロジェクトの一環として、今年10月、岩手県宮古市と岐阜県高山市に『パナホームファミリーの森』を開設。2014年9月30日までの1年間で、同社の住宅に住む施主と同社社員による約10,000本の植樹を目指している。
また、資生堂<4911>では、同社の製品はすべて生物多様性による自然の恵みに由来するものとして、「地球の恵みの保全」を中核におき、同グループ企業が製造する食品や化粧品の原料でもあるパーム油およびパーム核油の全量をRSPOが認証するパーム油とするなどの環境活動を展開している。
さらに、住友ゴム工業株式会社<5110>では、宮崎工場敷地内で絶滅危惧種ヒゴタイの育成・保護活動に取り組んだり、緑地帯の一角に従業員が中心になってビオトープを製作するなどの活動を通し、経済産業省から「緑化優良工場等経済産業大臣賞」を受賞している。
そして、今や大型のショッピング施設としてすっかりおなじみとなったイオンモール<8905>のグループの公益財団法人であるイオン環境財団も、インドネシア共和国の首都ジャカルタに約25,000本のマングローブ植樹を実施するなどの活動を積極的に行っている。
ちなみに同社は2009年、愛知目標に先立って「生物多様性 日本アワード(国内賞)」を創設し、助成活動を行っている。
これら大企業だけではなく、環境への取り組みは中小の企業にまで広がりを見せている。大切なのは「愛知目標」の呼称ではなく、その精神だ。人間が生きていく上で、たとえどんな生活スタイル、どんな職業や商売であれ、他の生物とそれを取り巻く環境との関わりを抜きにしては成り立たない。生物多様性への意識と取り組みは、他人事ではなく、自己防衛手段であるということを忘れないようにしたいものだ。(編集担当:藤原伊織)