438もの事業者が参画する、未来への約束

2013年06月01日 19:16

 2010年10月、愛知県名古屋市で「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が開催され「生物多様性新戦略計画」が採択された。いわゆる「愛知目標」といわれるこの計画は、COP10に参加した世界179の締約国、関連国際機関、NGO等が、地球上の生きとし生けるものの未来に誓った大切な約束だ。

 愛知目標の中長期目標としては「自然と共生する」世界を2050年までに実現し、短期目標は20年までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動を実施し、生物の生息地が失われる速度を半減させることなど、20の具体的な個別目標の達成を掲げている。

 ところが、内閣府が2012年6月行った「自然と共生社会に関する意識調査」によると、「生物多様性」という言葉の認知度は、わずか19.4パーセントに留まっており、残りの回答の内36.3パーセントは「意味は知らないが、言葉は聞いたことはある」と答え、「聞いたこともない」という回答は未だに41.4パーセントにのぼる。

 地球が誕生してから約40億年。その長い歴史の中で、進化や変異、絶滅を繰り返し、この地球には今、3000万種ともいわれる多様な生物が生息している。生物多様性条約では、生態系の多様性、種の多様性、遺伝子の多様性という3つのレベルで多様性があるとされているが、3000万種すべてが個性を持っており、相互に支えあって生きているのだ。認知度が低いとはいえ、生物多様性はとても大切な問題なのだ。

 我々人間の営みによって、地球上の生物の絶滅する速度は、自然の約1000倍にも加速してしまうといわれている。しかしながら、我々人間自身も地球上に棲まう生態系の一員であり、他の生物と関わりあうことで命を支えられているからには、生物多様性を破壊してしまうことは、将来的には人類の未来をも脅かすことにもつながる。

 世界規模で生物多様性保全の意識が高まる中、日本でもトヨタ自動車株式会社<7203>やTOTO株式会社<5332>、京セラ株式会社<6971>、伊藤忠商事株式会社<8001>など、438団体もの事業者、21の経済団体、27のNGO及び研究者、そして、農林水産省や経済産業省、地方自治体など15の公的機関、多種多様な企業や団体が生物多様性の民間パートナーシップに参画している。

 その中でも、生物多様性の保全に10年余りにわたって取り組んできた結果、2012年度に植栽本数年間100万本を達成した積水ハウス<1928>などは、一企業ながら早くから生物多様性の重要さに着目し、行動を起こしている企業のひとつだ。

 積水ハウスは日本有数のハウスメーカーであると同時に、エクステリア事業の売上高が年間500億円規模となる、日本最大の造園会社でもある。そして、その事業の基盤となっているのが、同社が2001年から取り組んでいる「5本の樹」計画。

 「5本の樹」計画とは、良い住まいは「家」と「庭」が一体となってはじめて実現できるとの考えのもと、「3本は鳥のために、2本は蝶のために」という思いを込めて、日本の在来樹種を気候風土に合わせて組み入れることをコンセプトに、実際にその住宅に住まう顧客とともに進める庭づくり、そしてまちづくりのことだ。「5本の樹」に集まる鳥や蝶たちが、庭と庭、そして庭と公園、里山、森をつなぐことで、その地域ならではの生態系ネットワークを育んでいきたいとの思いを込めた取り組みである。

 昨年は植栽本数年間100万本(実績101万本)を初めて達成したが、今年度はさらに110万本、累計1,000万本突破を目標に掲げ、「5本の樹」計画に賛同する約80社の植木生産者をネットワーク化して自生種・在来種を生産する一方で、青森県、和歌山県などの自治体とも連携して「企業の森」活動を進めている。

 考えてみれば、企業の存在も多様性に富んだ生き物のようなものだ。同業者はもとより、異業種間で相互に関わりあい、支えあいながら繁栄していく。一社単独で成り立つことなど、ありえない。また、人間の営みに関わる以上、生物多様性を保全するということは、自身の経営を将来的にも維持継続するための積極的な行動でもある。積水ハウスの「5本の樹」計画はまさに、その代表例といえる。

 また、積水ハウスは、生態系を壊さずに持続可能な木材利用を可能にするため、環境に配慮し、社会的に公正なフェアウッド調達に取り組んでいる。そして07年4月には、違法伐採かどうかだけではなく、産出地の地域経済の自立などにも配慮した10項目からなる独自の木材調達ガイドラインを策定、更に12年度には倫理的背景に対する社会的関心の高まりに配慮して内容を見直し、改定している。

 生物多様性が浸透しない理由のひとつは、抽象的な内容や言い回しの難解さにある。積水ハウスのような取り組みが増えて、言葉ではなく活動として具体的に示されれば、生物多様性に対する認知度や理解も、もっと高まるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)