脳を透明化して観察できる技術が登場した。独立行政法人 理化学研究所は18日、脳全体の遺伝子の働きやネットワーク構造を3次元データとして取得し、サンプル間で定量的に比較するための基盤技術「CUBIC(キュービック)」を開発したと発表した。
これにより、成体のマウスと小型のサルの脳(マウス脳の約10倍の大きさ)を透明化し、1細胞解像度で観察することに成功した。これは、理研生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)合成生物学研究グループおよび理研発生・再生科学総合研究センター(竹市雅俊センター長)システムバイオロジー研究プロジェクトの上田泰己グループディレクター(兼プロジェクトリーダー)、洲崎悦生基礎科学特別研究員(当時)、田井中一貴研究員(当時)、Dimitri Perrin(ペリン ディミトリ ジェラード)国際特別研究員らの研究グループの成果。
脳は神経細胞の複雑なネットワークにより構成され、さまざまな生体機能をコントロールしている。研究グループは、脳内の遺伝子発現や神経ネットワークを網羅的かつ定量的に取り扱うことによって、脳をシステム論的に理解するためのイメージング技術の開発を目指したという。
新たに開発した化合物スクリーニング法によって40種類の化合物を探索し、アミノアルコールが成体脳の尿素処理による透明化を促進することを発見した。これにより、これまで難易度の高かった成体マウスの全脳をより高度に透明化する試薬の作製に成功した。さらに、脳内の構造や遺伝子発現の様子を1細胞解像度で3次元イメージとして取得し、情報科学的な方法を応用した定量的な比較解析が可能となった。
研究グループは、これら一連の技術をCUBIC(Clear, Unobstructed Brain Imaging Cocktails and Computational analysis)と名付けた。CUBICはマウス脳だけでなく小型のサルの脳にも適用可能で、遺伝学的に組み込んだ蛍光タンパク質を検出するだけではなく、免疫組織化学的な解析にも適応できるという。CUBICを用いて光を当てたマウスと当てていないマウスの脳の全脳イメージング像を取得し、光に反応して活性化する脳領域を全脳レベルで定量的に同定することができた。
CUBICは全脳、あるいは全身の細胞の働きを、1細胞解像度で網羅的に観察できる技術だという。この技術の利用と発展により、個体レベルの生命現象とその動作原理を対象とする「個体レベルのシステム生物学」の実現に1歩近づくとしている。(編集担当:慶尾六郎)