ブラジルで開催される2014FIFAワールドカップまで1カ月余りとなった。毎回、世界的に大きな盛り上がりを見せる同大会だが、今回の開催国であるブラジルには治安という大きな不安材料がある。治安維持に向けたブラジル政府の必死の政策にもかかわらず、スリや強盗の発生率は依然として高く、貧困層の政府への不満などをきっかけとした暴動は続いている。
こうしたブラジルの治安回復をサポートするために、実はある取り組みが10年以上前から進められている。国際協力機構(JICA)は日本の警察庁の協力を得て、1980年代からさまざまな国で交番制度の導入を支援してきた。その導入先の1つがブラジルだ。
世界トップクラスともいえる我が国の治安レベルは、日本人の性質なども関係すると思われるが、警察組織の有機的な活動が功を奏しているとの見解もある。そこで日本の警察組織の活動に注目して、この取り組みを海外へ広げていこうという試みが、1980年代から行われてきた。その結果、ブラジルを中心に交番制度が中南米に広がりつつある。
1995年当時、サンパウロ市内の一画が、国連から「世界一危険な地区」と認定されるなど、ブラジル・サンパウロ州は深刻な治安問題を抱えていた。そこで事態を打開すべく、97年に州警察は交番制度を導入した。そのきっかけは、日本の交番制度に着目したことだ。
JICAは2000年以降、サンパウロ州の取り組みを支援し続けてきた。05~08年には、「地域警察活動プロジェクト」として日本の警察官を長期専門家として派遣し、サンパウロ州に適した交番制度の確立を支援した。さらに08年からは、サンパウロ州の交番制度を他州に普及させる「交番システムに基づく地域警察活動普及プロジェクト」を実施。交番制度は着実にブラジルに定着し、治安改善の実績を挙げている。
ブラジルの取り組みは、ブラジルと同じような治安問題を抱えている中米諸国の強い関心を集めた。地域警察活動の実践例をサンパウロ州警察から学ぶため、05年にサンパウロ州警察と中米諸国の警察組織の技術交流もスタートした。この交流は、エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカ、ホンジュラスと各地に広がっている。
こうした取り組みは徐々に国民へ浸透してきている。ホンジュラスの首都テグシガルパの一部の交番で警官でなく軍隊を配置したところ、地域住民から「軍はいらない!我々のお巡りさんを返せ」と抗議を受けて、警官を配置しなおした事例まで出ている。治安の維持というと、特に海外では軍の出動が主な手段として登場しがちだが、地域に根差した“お巡りさん”の存在が、住民の信頼を集めながら生活の安全に大きく貢献していることがうかがわれる。(編集担当:横井楓)