トップアスリートのセカンド・キャリア

2013年08月10日 20:36

 2013年9月7日にブエノスアイレスで開かれる第125次IOC総会において、いよいよ2020年の夏季オリンピック及び第16回パラリンピック競技大会の開催地が決定されるとあって、開催国に名乗りを上げている日本ではその動向に注目が集まっている。
 
 また今秋は、来年に控えたソチ冬季オリンピックや、サッカーのワールドカップなど、スポーツに関する話題が目白押し。そんな中、メディアなどでも度々話題にあがるのが、トップアスリートたちの引退後の進路、いわゆるセカンド・キャリアの問題だ。

 財団法人日本オリンピック委員会(J.O.C)でも、2001年に策定したオリンピックのメダル獲得数の倍増を目指す「JOCゴールドプラン」の中で、セカンド・キャリアに対する選手の関心、意識の実態把握を行っている。それによると、選手たちはセカンド・キャリアについて、全体の8割以上は何らかの検討をしていると回答しているものの、5割近くが「とくに取り組んでいない」と答えている。

 また、「引退後も引き続き競技に関わりたい」と答える者や、希望職種としては「スポーツ指導者」と答える者が多い反面、3割強が選手個人の商業活動についての意向を示していることも分かった。さらには、セカンド・キャリアで得られる収入面での不安を訴える声もある。

 全体的な問題としてはやはり、選手自身のセカンド・キャリアに対する意識の低さ、そして準備不足が挙げられる。これでは、オリンピックのメダリストや人気競技の花形選手ならまだしも、引退後に路頭に迷ってしまうような選手も少なくはないだろう。 しかし、これは何も選手だけの問題ではない。選手をサポートする企業や団体も、アスリートのセカンド・キャリアを真剣に考える時期が来ているのではないだろうか。

 アスリートのセカンド・キャリアに対する取り組みとして、業界でも一歩先に進んでいるのがヤマハ発動機<7272>だ。同社は、ラグビートップリーグのヤマハ発動機ジュビロなど、スポーツ振興に力を入れている企業だが、社員の人間形成の一環として捉えており、現役を引退した選手のセカンド・キャリアにも数多く貢献していることで知られている。

 例えば、ヤマハ発動機ジュビロで活躍した元ラガーマンの中越将通氏は、メキシコにおけるヤマハ発動機の現地法人YMMEXで部品部門に在籍しているが、セカンド・キャリアにおいてもヤマハ発動機ジュビロのラガーマンだったからこその活躍をみせている。

 中越氏が同社に入社した当時はたとえ日本を代表するような主力選手でも、フルタイムで社員として働き、練習後に残業まで行う生活を送るような先輩も少なくなかった。一般人の目から見ると過酷とも思える環境かもしれないが、職場で頼りにされる先輩の背中を見てきたことや、現役時代から海外での業務を意識させる環境があったことで、セカンド・キャリアに対する意識も、他のアスリートに比べて早い段階で具体的にとらえることができた。そのお陰で中越氏にとってはセカンド・キャリアへの移行は抵抗なく、むしろ第2のキックオフを意欲的に行えたという。

 YMMEXの高橋慶彦社長も、かつてはヤマハ発動機ジュビロの主力として活躍した元ラガーマン。さらには二人だけでなく、事業部やコーポレート部門で活躍するラグビー部の出身者は現在103人。その内、海外拠点にはじつに10か国・20人ものラグビー部OBが駐在しているという。

 海外勤務は責任の範囲も広くて重い。しかし、中越氏らはラグビーで培ったチームワークと馬力で供給体制の改革・改善に取り組んでいるといい、会社のグローバル化の一翼を担えるのはラグビーのお陰だと語る。ラグビー文化の一つに「毎日、自分の力を出し切る」という精神があり、こういう文化の中で育った選手たちが、タフな海外の現場で求められ、力を発揮するのは自然なことであるともいう。こういった取り組みは、解説者や指導員以外に考えられる、アスリートのセカンド・キャリアとしては一つの理想形ではないだろうか。

 スポーツ選手、とくにトップアスリートが選手として活動できる期間はごくわずかだ。しかし、成績を残すために、そのわずかな期間に青春のすべてを捧げなくてはならない。選手の不安を少しでも和らげ、日本のアスリートたちが世界に通用する成績を残すためには、ヤマハ発動機のようなサポート体制が普及すれば、きっと大きな力になるだろう。(編集担当:藤原伊織)