ASEAN諸国で繰り広げられる、日系企業によるシェア争い

2012年12月29日 19:04

 高い経済成長率の維持と、内需の潜在能力や貿易拠点としての地理的優位性などにより、存在感を強めるASEAN諸国。ジェトロの報告書によると、2011年の日本の対ASEAN直接投資額は1兆5485億円と前年比で倍増しており、多くの国で過去最高を更新、中国向け投資を大きく上回る結果となった。中でもインドネシア向けの投資は、2009年・2010年と500億円を下回ったものの、2011年は前年比7倍の2875億円へと急増。さらに、洪水被害のあったタイに関しても、前年比2.8倍の5575億円と、ASEAN諸国中最大となるなど、日系企業とASEAN諸国の双方にとって、お互いの存在感は増している。

 ASEAN諸国内でも日系メーカーが群を抜いて存在感を示しているのが、二輪車市場である。中でも先に上げたタイとインドネシアにおける日系メーカーの存在は大きく、みずほ総合研究所の報告書によると、2011年の段階でインドネシア二輪車市場の99%を日系メーカーが占めており、またサーベイリポートの調査によると、タイにおける日系企業のシェアは「ほぼ100%」である。両国においては特にホンダ<7267>とヤマハ発<7272>の存在感は大きく、両社が激しくシェア争いを繰り広げている。

 約800万台とされるインドネシア二輪車市場では、前出みずほ総合研究所の報告書によると、2010年のメーカー別販売シェアがホンダ46.3%であるのに対し、ヤマハは45.1%と肉薄している。この市場においてホンダは、今年3月に新工場の建設を発表。第4工場となる新工場の年間生産能力は110万台規模であり、既存の工場と合わせると530万台にも上る。2011年のインドネシア二輪車市場の全体の成長率(前年比109%)を、ホンダの販売実績(前年比125%)が大きく上回っていることもあり、一気にシェア拡大を図ったものと言えるであろう。一方のヤマハ発は、現地製コミューター「MioJ(ミオ ジェイ)」を2月に発売したのを皮切りに、4月には、低燃費で経済性に優れた115CCエンジンを搭載したFI・ATコミューター「SOUL GT(ソウル ジーティー)」を、7月にはスポーティな走行性と経済性を進化させた「JUPITER Z1(ジュピターゼットワン)」を相次いで発売。今月も、スポーツモデルのカテゴリーにおいて、インドネシアで累計約100万台以上を販売している「V-IXION(ヴィクシオン)」の後継モデルとなる新型「V-IXION」の発売を発表した。新型「V-IXION」では、“洗練された本格スポーツ”を提唱し、さらなる商品力の向上を図っている。

 タイ二輪車市場では、前出サーベイリポートの調査によると、2010年のホンダの販売台数が約126万台であるのに対し、ヤマハ発の販売台数は約48万台と少し溝が開いている。しかし、3位のスズキが約6万台であることを考えれば、こちらも実質的には2社によるシェア争いといえるであろう。同市場においてホンダは、グローバルモデル用新工場を本格稼働させ、2009年より生産しているスクータータイプの「PCX」、2010年に生産を開始したロードスポーツモデル「CBR250R」に続き、タイホンダとして初めて生産する中型排気量車、新型「CB500シリーズ」の生産を開始した。このCB500シリーズは、アジア地域だけでなく、日本、欧州、北米、オーストラリアなど幅広い地域向けのグローバルモデルとして、タイから輸出されるという。一方のヤマハ発は、こちらの市場においても、市場の特性に合わせた独自の商品展開が主流である。年間約200万台というタイ二輪車市場において、2010年の発売から累計18万台を販売したATモデルの「Mio125」に、フューエルインジェクション(FI)採用で更なる燃費向上による経済性とスムースな加速性を加えた後継車、「Mio125i」を10月に発売。そして今月には、走りと実用性の良さで支持を得ている現行モデル「Spark Nano」の後継車として、一層の燃費向上と扱い易さを実現した「Spark115i」の発売を発表。こちらは地方都市を中心に人気が根強いというMTモデルとなっている。

 グローバルモデルを量産して、ASEAN諸国のみならず世界中で販売するホンダに対し、ヤマハ発は他社に先んじてATモデルの導入を行うなど、新しい価値・スタイル提案でヤマハ発らしさを追求する。それは製品に留まらず、「ヤマハ アセアン カップ レース」を開催し、ASEAN地域におけるモーターサイクルスポーツの普及・進行に尽力。さらにモトGPライダーが参加するイベントの開催で、同地域におけるヤマハブランドのイメージ強化を図るなどしている。異なるアプローチでシェア拡大を図る両社が、今後どういった結果を残していくのか、注目していきたい。(編集担当:井畑学)