NICTらが次世代パワーデバイス材料の酸化ガリウムエピウエハを開発 ベンチャー設立し事業化へ

2015年10月24日 18:14

 酸化ガリウムは、日本発の新しい半導体結晶材料である。バンドギャップが大きく、高品質・大型の単結晶基板を安価に製造できることから、近年パワーデバイス用材料として注目されている窒化ガリウムと炭化ケイ素を凌駕するポテンシャルを持つ、次世代パワーデバイス材料として期待されているという。実用化されれば、6,000Vを超える極めて高い耐圧を有しながら、低損失性を併せ持ったダイオードやトランジスタを実現できる可能性があり、電気自動車、電車の電源や送電系統システムの設計に大きな変革をもたらすことが期待される。

 今回、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、東京農工大学、タムラ製作所らの研究チームは、この酸化ガリウムを使ったエピウエハの開発に成功した。タムラ製作所からのカーブアウトベンチャーであり、NICT技術移転ベンチャーでもあるノベルクリスタルテクノロジーが事業化し、10月からパワーエレクトロニクスに向け、大学・研究機関・メーカーなどへ供給を開始した。

 なお、この研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)省エネルギー革新技術開発事業の支援を受けて実施した。

 パワーデバイス用エピウエハには、(1)エピ表面の平坦性と、(2)低キャリア濃度領域での濃度制御の2つが求められる。今回、研究チームは、エピ成膜方法としてオゾンMBE法と呼ばれる方法を採用し、結晶面方位、ドーパント種、成長温度、原料供給量等の成長パラメータを最適化した。これらにより、パワーデバイス用エピとしての性能を満たす、1nm以下の表面粗さと、1016cm-3台の低キャリア濃度領域での制御が可能となった。

 そして、このエピウエハを用いて良好な特性の ショットキーバリアダイオードやトランジスタを作製できることを確認した。研究チームは、以上の結果を基に、世界初となるパワーデバイス向けの酸化ガリウムエピウエハの開発の成功にいたったという。

 また、これらの成果を事業化するため、タムラ製作所と研究者などの個人投資家は共同出資によりノベルクリスタルテクノロジーを設立した。外部の資本を積極的に取り込み、独立した経営陣によるスピーディーな開発、事業化を推進していくため、タムラ製作所からのカーブアウト(技術切り出し)の形態を採用している。

 ノベルクリスタルテクノロジーはNICT技術移転ベンチャーとして、NICTから知的財産の技術移転を受けて事業を行う。今後成長が見込まれるパワーエレクトロニクスに向け、大学・研究機関・メーカーなどへの供給を行っていく。同社は、本格的な市場の立ち上がり時期として2020年頃を想定しており、2016年度6,000万円、2020年度7億円、2025年度80億円の売上げを目標としています。当面は研究開発向けの製品を出荷しながら、低コスト・大口径ウエハの量産技術の開発を進める。(編集担当:慶尾六郎)