KDDIらが構築を目指す「デジタルツインRAN」のイメージ。商用通信ネットワークを仮想空間上に高精度で再現し、AIが事前に学習・検証を行うことで、6G時代の自律運用や通信品質の最適化を実現する。(画像:KDDIニュースリリースより)
今回のニュースのポイント
KDDIとKDDI総合研究所は、NVIDIA、Keysight、Samsung Research Americaと共同で、6G時代を見据えた「デジタルツインRAN」の構築検討を開始しました。通信ネットワークを仮想空間上に忠実に再現し、AIが学習や検証を行う基盤を整備する構想です。単なる通信速度向上の話ではなく、通信インフラそのものがAIによって最適化・自律運用される時代への入り口として注目されています。
本文
現代社会において、通信ネットワークは電気や水道と並ぶ重要な社会基盤となっています。スマートフォンの爆発的な普及に続き、生成AIの普及、IoTデバイスの乱立、さらには自動運転の本格的な社会実装にともない、ネットワークにかかる負荷とデータ処理量は拡大の一途をたどっています。しかし、多様化するニーズに応じて複雑化する通信トラフィックに対し、従来のシステムエンジニアによる「人間が監視し、異常が起きてから対処する」という管理手法だけでは、近い将来に対応が難しくなりつつあるのがインフラ運用の限界です。
現在普及が進む5Gから、その先の「6G」時代へと移行するにあたり、通信網に求められる本質は単なる通信速度の「高速化」だけではありません。5Gによってネットワークが高度化した結果、基地局の配置や周波数制御、ビームフォーミングといった制御パラメーターは極めて複雑化しています。人手によるチューニングや最適化には限界が近づいており、6G時代の重要な競争軸の一つは、ネットワークそのものが自ら判断して最適化を行うAI駆動の自律運用にあるとみられています。
この自律運用の実現に向け、KDDIらが打ち出したのが「デジタルツインRAN(高精度無線アクセスネットワーク)」という構想です。これは、現実世界における電波の伝搬や無線ネットワークの極めて複雑な挙動を、デジタル空間上に丸ごとコピーして忠実に再現するシミュレーション基盤です。いわば「通信ネットワークのデジタルコピー」を仮想空間に構築することで、稼働中の実環境の通信に一時的な障害などの悪影響を与えるリスクを排除したまま、最先端AIの網羅的な検証が可能になります。
このデジタルコピーの最大のメリットは、AIに「未来のトラブル」を先回りして体験させ、大量の経験値を積ませることができる点にあります。現実世界ではめったに起きない大規模な通信障害、バースト的なトラフィックの急増、大規模災害時の通信集中、あるいは大型イベント時の極端な混雑といった過酷なシナリオを、仮想空間上で多数のシナリオを同時並行で再現し、検証することができます。これにより、AIはまだ見ぬ未来の環境変化やトラフィック変動に対して「もしも」の先回りをし、プロアクティブ(先制的)にエリアを最適化する能力を獲得します。
今回の共同検討に米半導体大手NVIDIAが参入しているという事実は、次世代通信の戦い方が変わったことを象徴しています。これほど複雑な電波伝搬のデジタルツインを大規模にスケールさせ、膨大なAIの同時学習を回すためには、これまでの通信機器の枠を超えた超高性能なGPU(画像処理半導体)と計算基盤が必要不可欠となります。KDDIは自社の「AIデータセンター」をこの大規模運用に向けた計算基盤としてフル活用する方針を示しており、通信網の運営が、従来の「通信会社と通信機器ベンダーの協業」から、「通信会社とAI・計算基盤企業の融合」という全く新しい構図へ移行している実態を映し出しています。
ここから浮き彫りになるのは、通信網の主役が「人の運用」から「AIの自律化」へと、ドラスティックに変貌しつつあるという未来像です。これまでは人間が24時間体制で画面を監視し、状況を調整し、現場の判断を下していました。しかし将来的には、AIが障害を事前に予測し、AIが自動で電波の出力を最適化し、AIが運営の意思決定を支援する体制へと変化します。
かつての4Gは「インフラの普及」を競い、5Gは「通信の高速化・大容量化」を競う時代でした。しかし、ネットワークのネイティブな機能として高度なAIが組み込まれる6Gの世界において、競争の軸は速度ではなく「知能」へと移りつつあります。最高の通信品質を維持し、深刻な課題である消費電力を極限まで抑え、限られた人員で運用効率を最大化する――そのすべてが、どれだけ賢いAIをインフラに宿らせるかという「知能化競争」にかかっています。
通信ネットワークは、将来的に自動運転車やスマートシティの制御システムともリアルタイムに連動する、国家の最重要基盤です。今回の5社による国際的なデジタルツインRANの始動は、通信業界がこれまでの物理的なインフラ建設の競争を脱却し、AIという「知能」によって24時間365日の社会基盤の安全性を担保する、新たなインフラ運営の時代の幕開けを告げていると言えそうです。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













