なぜ小型機器は長時間動くのか 半導体業界で進む「省電力競争」

2026年06月23日 15:55

ローム

ウェアラブル機器やIoT機器の普及に伴い、半導体業界では性能向上だけでなく消費電力の削減も重要な競争軸となっている。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

ロームは、高効率かつ超低消費電流を実現する昇降圧電源IC「BD83070GWL」の性能を最大限に引き出す超小型リファレンス基板を開発したと発表しました。実装面積はわずか12.87平方ミリメートル。スマートリングやスマートウォッチ、IoTセンサーなどの小型バッテリー機器向けに設計されています。一見すると地味な部品開発のニュースですが、その背景にはAIやIoTの普及によって加速する省電力競争があります。半導体業界では今、性能だけでなく「いかに電力を使わないか」が重要な競争軸になりつつあります。

本文
 ロームが発表した新しいリファレンス基板は、昇降圧DC-DCコンバータIC「BD83070GWL」を中心に構成された超小型電源基板です。基板はICのほか、コイルやコンデンサなど計5点の部品のみで構成され、実装面積は12.87平方ミリメートルという極めて小さなサイズを実現しています。技術的には、最大97%の高効率と、待機時の電力消費を極限まで抑える2.8マイクロアンペアの超低静止電流が特徴です。しかし、このニュースの本質は単なる小型化技術ではありません。そこには、電子機器の小型化と長時間駆動を両立させるという課題があります。

 近年の電子機器は急速に小型化しています。スマートウォッチやスマートリング、 ワイヤレスイヤホン、スマートロック、生体センシング機器など、私たちの身の回りには小型バッテリーで動く機器があふれています。一方で利用者の要求は厳しくなる一方です。より軽く、より薄く、より長時間動いてほしい。しかし、バッテリーには物理的な限界があります。本体を小さくしながら稼働時間を延ばすためには、電池を大型化するのではなく、機器そのものの消費電力を減らす必要があります。

 半導体業界というと、一般的には処理能力や演算性能の競争が注目されます。生成AI向けGPUや高性能プロセッサの進化がその代表例です。しかし、電子機器全体で見れば、実はもう一つ重要な競争が進んでいます。それが省電力競争です。わずかな待機電力の削減や電源変換効率の向上が、製品の使い勝手やバッテリー寿命を大きく左右します。スマートフォンやウェアラブル機器の利用時間向上には、バッテリー技術や半導体設計の進化に加え、こうした目立たない電源部品の改良も大きく貢献しています。

 さらに近年はAIの活用がクラウドだけでなく端末側へ広がり始めています。スマートウォッチによる健康管理や、ウェアラブル機器による生体センシング、工場や物流現場で活用されるAIセンサーなどが挙げられます。AI処理の一部をクラウドではなく端末側で実行するエッジAIの活用も広がりつつあります。こうした小型デバイスは、常時データを取得しながら長期間稼働することが求められます。そのため、演算性能だけでなく消費電力の最適化が製品競争力を左右する要素になっています。

 AI関連のニュースでは、巨大データセンターや高性能GPUに注目が集まりがちです。しかし実際には、AI社会を支える技術はクラウド側だけで完結するわけではありません。私たちが日常的に身につけるウェアラブル機器や、街中に設置されるセンサー、工場で稼働する小型端末など、無数のデバイスがAI時代の末端を支えています。 それらの多くは限られたバッテリーで動作しています。つまり、AI社会の普及を支えるもう一つの競争は、消費電力との戦いなのです。

 今回のロームの発表は、一見すると専門的な電源基板の話に見えます。しかし、その背景にあるのは電子機器の小型化、省電力化、そしてAI・IoT社会の拡大という大きな産業構造の変化です。半導体競争はこれまでどれだけ速く計算できるかが中心でした。しかし今後は、どれだけ少ない電力で動かせるかという競争の重要性もますます高まっていくでしょう。目立つのは最先端のAIモデルや巨大データセンターかもしれません。しかし、その足元では電源回路や省電力技術といった見えない技術革新が静かに進んでいます。今回の発表は、AI時代の競争が性能だけでなく省電力へも広がっている現実を映し出していると言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)