電力変換は次のステージへ。世界最高性能を達成したSiCパワーデバイス

2015年06月06日 18:16

Rohm SiC

ロームが開発したトレンチ構造SiC-MOSFET。量産中のプレーナー型SiC-MOSFETに比べ、オン抵抗を約50%低減し、スイッチング性能の向上も実現。SiCパワーデバイスを次のステージに導く技術として期待が高まる。

 東日本大震災以降、日本では節電意識が飛躍的に高まったが、電力供給の問題は何も日本だけに限ったことではない。発電した電力をどれだけ効率よく、損失を少なく抑えて輸送し、さらにそれをいかに有効に活用できるかという電力変換技術は、今や世界の関心事だ。

 発電所から送電されてくる電力は高圧であるため、それを各々の設備で利用するには、変電所などを経て何度も変換を繰り返す必要がある。また、太陽光などの再生可能エネルギーを家庭で利用するときには逆方向の変換が必要となる。これら電力変換の度に損失される電力を低減することができれば、大幅な省エネにつながることは言うまでもないだろう。

 電力変換にはこれまで、主に「Si(シリコン)パワーデバイス」が用いられてきたが、理論的性能限界に近づいているといわれており、今以上の性能向上は望めそうもない。そこで近年、急速に注目を集めているのが「SiC(シリコンカーバイド:炭化珪素)パワーデバイス」だ。SiC 材料を用いることで、Siに比べて飛躍的な高耐圧、低損失(高効率)が実現でき、例えば、SiCパワーデバイスをインバータに用いたときの電力損失は、従来のSi品のおよそ1/100にも低減できる可能性があるといわれている。

 このSiCパワーデバイスの開発において、業界をリードする製品開発を行っているのが日本の半導体大手、ローム株式会社<6963>だ。同社ではこれまで、2010年にSiC MOSFET の量産化に成功しているが、先日、さらにSiCを次のステージに導く画期的なパワーデバイスを発表して業界の注目を集めている。

 同社が新しく開発したのは、トレンチ構造SiC-MOSFETを使用したフルSiCパワーモジュールだ。内部回路は2in1 構成で、SiC-MOSFETおよびSiC-SBDを用いた1200V/180A定格の製品となる。同等レベルの電流定格であるSi-IGBT モジュール製品と比較した場合はもちろん、プレーナー型SiC-MOSFET を使用したフルSiC モジュールと比較した場合でも、スイッチング損失を約42%も低減することに成功した。

 トレンチ構造SiC-MOSFETは、溝を意味する「トレンチ」の名の通り、チップ表面に溝が形成されているのが大きな特長だ。プレーナー型の構造よりも微細化が可能なため、SiC材料が持つ本来の性能を充分に引き出した低オン抵抗(低損失化)が期待できる。トレンチ構造の可能性はかねてより世界的に注目されてはいたものの、デバイスの信頼性を確保するため、ゲートトレンチ部分に発生する電界を緩和する構造を確立するという課題があった。ロームの新製品は、独自構造を採用することによってこの課題を見事に克服し、世界で初めてトレンチ構造を採用したSiC-MOSFET の量産化に成功したものだ。すでに量産中のプレーナー型SiC-MOSFETに比べ、オン抵抗を約50%低減、あわせてスイッチング性能(入力容量を約35%低減)の向上を実現しており、実質、現状で世界最高性能のSiCパワーデバイスといっても過言ではないだろう。

 太陽光発電用パワコンや産業機器向け電源、工業用インバータなど、あらゆる機器の電力損失を大幅に低減するロームのトレンチ構造SiC-MOSFETは、日本のみならず、海外の先進諸国からの注目も集めており、採用が進めば世界の電力事情を大きく改善することに貢献しそうだ。(編集担当:藤原伊織)