だからと言って「今週はイケイケで2万円急接近だ」などと、はしゃいではいけない。なぜなら「鬼のSQ週」で、火曜、水曜の10日、11日は「鬼門」になるからだ。これまでに何度、急落で辛酸をなめてきたことか。「好事魔多し」という言葉もある。また、来週の18~19日には日銀会合が控えている。19日が解禁日のフランス産のワインにちなんで「ボージョレー・ヌーボー緩和」に期待しながら、来週まで様子見をきめこむ動きも出そうだ。それなら上値は限定される。
もし、10日の景気ウォッチャー調査の結果が3ヵ月連続50割れと悪くても、12日の機械受注、来週16日発表の7~9月GDP速報値の結果が揃うまでは、景気対策で政府が補正予算を編成する話はまだ具体化しないと思われる。「イケイケで2万円急接近」は、政府と日銀のダブル政策効果が出るかもしれない来週にはありえても、今週はまだないだろう。むしろ、利益確定売りで19000円割れのほうが現実味を帯びている。
それは、テクニカル指標からも言える。
6日の日経平均終値19265.60円のテクニカル・ポジションを確認しておくと、4本の移動平均線も日足一目均衡表の雲も全て下になった。まだ「2万円台ワールド」の天上界にいた8月18日以来のこと。200日移動平均は19249円、75日移動平均は19019円、5日移動平均は19015円で、25日移動平均18473円は17866~18924円の「雲」の中にある。今週の雲の上限は18924円で固定され、下限は17866円から17805円まで下がってその厚みが増す。ボリンジャーバンドでは、6日終値は18913円の25日線+1σと19352円の+2σの間にあるが、+2σまではあと87円と近い。統計学の「標準偏差」の理論上は、-2σ~+2σをはみ出す確率は4.55%しかない。その確率が0.27%に低下する+3σは19792円に位置している。
オシレーター系指標は「買われすぎ」シグナルが4つ、買われすぎの基準の取り方によっては5つも点灯している。25日騰落レシオは135.7で基準の130をオーバー、RCI(順位相関指数)は+71.3で基準の+50をオーバー、ストキャスティクス(9日・Fast/%D)は80.9で基準の70をオーバー、ボリュームレシオは74.0で基準の70をオーバーしている。25日移動平均乖離率は+4.1%で、基準が+5%なら下だが、+4%ならオーバーしている。9勝3敗で75%のサイコロジカルライン、68.2のRSI(相対力指数)も基準にかなり接近しており、オシレーター系指標だけ見れば上値追いには厳しく、下げやすい。
チャート上は「いつも青空」の雲の上にやっと出て、移動平均線の「向き」が75日線以外は上向きになるなど支援材料もないことはないが、テクニカルの風は総じてアゲンストだと言える。
では需給の風はどうかというと、東証が6日発表した10月第4週(10月26~30日)の投資主体別株式売買動向では、外国人は2週連続の買い越しだが買越額はその前週の1882億円から912億円にほぼ半減し、個人は5週連続の売り越しで売越額は1260億円。信託銀行は10週ぶりに1192億円の売り越しに転じるなど「需給三国志」に情勢の変化が生じていた。それを反映してか10月30日時点の裁定買い残は1209億円増加して約2.5兆円に達し、10月2日の約2兆円から約25%増加している。これがSQ週の波乱要因になるのだが、信用倍率は10月30日時点で4.85で低い水準を維持し、10月は40%を超える日が多かったカラ売り比率は、前週4~6日は30%台前半に落ち着いた。アゲンストの風が吹いても嵐にはならないレベルか。
今週の上値は、アメリカ雇用統計発表後の為替の円安を味方につけて19500円を超え、一時的にはボリンジャーバンドの25日線+3σの19792円に接近する局面もあるだろう。だがそこから急落し、一時的に19000円を割って下値をたたく局面もやってくると思われる。それでも下値の最後のサポートラインは上限が18924円固定の「雲」で、終値で19000円の大台はほぼ維持できると思われる。
ということで、今週の日経平均終値の変動レンジは18900~19800円とみる。「高値波乱」もあって日中値幅が大きく、日ごとの変動も激しい週になりそうだ。
日経平均の「終値2万円台最後の日」は8月20日だった。その後、中国発の世界的な株価下落が起きて、そこから回復した。11月5日までに各国の株価指数がどこまで回復したかを調べてみると、欧米市場はNYダウは105.1%、S&P500は103.1%、ロンドンFTSE100指数は99.9%、フランクフルトDAX指数は104.3%、パリCAC40指数は104.1%。ロンドンも100%を超えた日はあった。「震源地」の上海総合指数は96.6%、香港ハンセン指数は100.4%だったが、東京市場はそれを下回って日経平均は95.4%、TOPIXは95.7%。元に戻るまで、まだまだ時間がかかりそうだ。「置いてけぼり」の東京はグローバルマーケットの中心などではなく「周縁(マージナル)」なのではないかと、改めて意識させられるような数値である。
だが、悲観することはない。人類史ではこれまでに何度も、マージナルな存在が社会を変え、歴史を塗り替えてきた。古代以来の日本のマージナル「熊野」を体現した異形の作家、中上健次はこんなことを言っている。「熊野には世界を救う思想がある」(編集担当:寺尾淳)