ダイエット目的で食事制限をする人は多いが、無理のない範囲の空腹状態を保つことは、実はダイエット意外にも様々なメリットがあることが、最近の研究で分かってきた。
公益財団法人東京都医学総合研究所の平野恭敬主任研究員、齊藤実参事研究員らのグループがアメリカの科学誌「サイエンス」に発表した大変興味深い研究報告がある。それは、ショウジョウバエを用いた実験で「空腹状態になると記憶力が上がること」、さらにその分子メカニズムを解明したというのだ。しかもこの実験結果は、人間にも当てはまる可能性が高いという。
これまで、記憶のメカニズムに対する研究は進んでいるが、実は「記憶を改善する方法」はよく分かっていなかった。今回、この実験結果により、空腹と記憶との因果関係が初めて明らかになったことで、アルツハイマー病や老化による記憶力の低下、先天的な記憶障害の改善に向けた大きな一歩を踏み出したことになる。
今回の実験では、空腹状態と餌を食べて満腹になったショウジョウバエを準備し、双方のハエに、ある香りを嗅がせながら、ハエが嫌がる電気ショックを与える嫌悪行為を繰り返した。その結果、満腹のハエは翌日にはそのことを忘れてしまうが、空腹状態のハエは一度学習するだけで、翌日でも覚えていることがわかったのだ。
そして、研究グループが空腹状態のハエの神経細胞を分析したところ、ハエの体内では糖分を抑えるホルモンが減少し、脳内で記憶力を向上させるたんぱく質が活性化されており、見事に長期記憶として保存されていることを発見した。
すべての動物の生活は長期記憶に支えられている。脳の神経細胞でCREBというたんぱく質が新たな遺伝子を読み出す長期記憶のメカニズムは、ショウジョウバエから哺乳類まで共通したものだ。そして同種のタンパク質は人間の体内にも存在するため、研究グループでは、この実験結果は人間にもあてはまる可能性が高いとみている。現段階では、まだ断定できないものの、長らく謎とされてきた記憶のメカニズムを解明する糸口になるのではないかと期待が高まる。
これが本当に人間にもあてはまるのであれば、受験勉強などのやり方も変わってくるだろう。勉強は食前の空腹時に行うことで、効率が何倍もアップする。睡眠不足は記憶力の減退にもつながるといわれているから、徹夜して勉強し、夜食を食べるなど、もってのほかだ。受験生こそ、早寝早起きを心掛けた方が良いということのようだ。(編集担当:藤原伊織)