肥満になった父ラットから生まれた娘ラットは、通常食で育っても糖尿病の症状を示すといった研究結果も報告されている。こうしたなか、京都大学大学院らの研究チームは、線虫を使った研究で、親世代で獲得したストレス耐性の上昇が数世代にわたって子孫に受け継がれることを発見した。
生物科学では長らく、後天的に学習したものは子孫に受け継がれる際にはリセットされて遺伝しないことが常識とされてきた。ところが近年、この常識を覆す研究結果がいくつも発表されている。サクラの花びらの香りをかいだ後に電気ショックを与える条件付けの実験では、被験マウスの子供とその子供に至るまで、より低い濃度のサクラの香りで学習が起こることが報告されている。また、肥満になった父ラットから生まれた娘ラットは、通常食で育っても糖尿病の症状を示すといった研究結果も報告されている。こうしたなか、京都大学大学院らの研究チームは、線虫を使った研究で、親世代で獲得したストレス耐性の上昇が数世代にわたって子孫に受け継がれることを発見した。
同研究グループは、親世代の線虫に対して低用量のさまざまなストレスを与えて育て、種々のストレス耐性の上昇を確認した。低用量のストレス環境下で、ストレス耐性の上昇や寿命の延長が現れる現象は「ホルミシス」と呼ばれており、望ましくない環境変化に適応するための生存戦略のひとつとされる。同研究ではこのホルミシスに関する情報が、数世代にわたって受け継がれることが明らかになった。ホルミシスに関する情報の継承は、DNAの配列変化によるものではなく、DNAに施される化学的修飾による(エピジェネティックな)ものだ。生殖細胞内のヒストン修飾因子が関わり、遺伝子の発現が制御されることでDNA配列によらない獲得形質の継承が起こっていた。
獲得形質の継承について、エピジェネティック制御が関与していることは知られていたが、そのメカニズムについては解明されていないことも多かった。こうしたなか、特定のヒストン修飾因子と体細胞組織のいくつかの転写因子との組織間コミュニケーションを介して遺伝子発現の制御が行われていることが判明したことは画期的で、エピジェネティクス研究の発展に寄与するものだという。また、環境ストレスによって獲得された生存に優位となる形質が、数世代にわたって継承することの発見も世界初で、線虫以外の生物においても重要な知見となる可能性があるとのこと。(編集担当:久保田雄城)