政府が医療費抑制を目的としてジェネリック医薬品の普及拡大を図るため、新たなルールを導入したことから長期収載品の存在を維持することが困難になって来ている。具体的には、2014 年度の薬価改定でジェネリック医薬品への置き換え率に着目して、長期収載品の薬価を更に引き下げるという、新たな Z2(特例的な引き下げ)が導入された。これにより、いくら製薬企業側が薬価防衛に動いたとしても、薬価改定の度に長期収載品の薬価が引き下げられることになった。
そのため最近では AG(オーソライズド・ジェネリック)の手法が製薬業界内で注目を集めるようになっている。AG は、新薬を投入する製薬企業が関連会社や他社と契約して特許の使用権を与え、用法用量が同じだけでなく、原薬(薬の有効成分)や添加物、製造方法まで完全に同一にすることである。AG はジェネリック医薬品の使用に抵抗がある医師や薬剤師に対しても、新薬と同等のジェネリック医薬品ということで抵抗なく使用してもらえるメリットがある。すでにわが国においてもいくつかの AG の医薬品が販売されており、相応の売上を挙げている。
矢野経済研究所では、厚生労働省「平成27年薬事工業生産動態統計月報」の医療用医薬品の生産高に輸入品を加えた 2015年確定値を基に2016年から 2024年までの生産高を予測した。予測は、医療制度改革や薬価制度の見直しが医療用医薬品需要に及ぼす影響度合いにより、ケースⅠとケースⅡの2つのケースで予測値を算出した。なお、両方のケースに共通しているのは、(1)2018 年度以降、薬価改定が毎年行われること、(2)新薬創出加算制度 は試行的状態が継続すること、(3)ジェネリック医薬品の数量シェアは引き続き拡大することを想定している。
ケース1は、「医療制度改革や薬価制度の見直しが医薬品需要に影響を及ぼすこと」を想定して作成を行った。わが国を含む先進諸国においては、今後も医療費の抑制が行われることになるものと予想される。特に急速な少子高齢化の進展にいかに対応するかということも、国家財政が逼迫している状況下においては避けて通れない。ケースⅠでは、長期収載品が段階的に減少し、ジェネリック医薬品の数量シェアが拡大すること、高額な薬価で収載された医薬品に対しては特例拡大再算定制度や一定のルールなどにより医療費の抑制が行われることを想定した。このようなことから2016年には9兆8,140億円、2020年には7兆 7,460 億円、2024年には6兆8,530億円と予測する。
ケース2は、「企業努力によって医療制度改革や薬価制度の見直しを上回る医薬品需要拡大が見込まれること」を想定して作成を行った。ここ10年程度の生産高推移の傾向を見ると、抗がん剤や糖尿病治療薬など超高齢化社会において多くの患者が必要としている医薬品が堅調に売上を伸ばしており、循環器官用薬も厳しい状況にはあるが患者数が多く、一定の生産額を維持することができている。ケースⅡにおいても、生活習慣病治療薬などの分野でジェネリック医薬品への切り替えが行われ、薬価の毎年改定が実施されることになるが、抗がん剤や認知症治療薬などにおいて注目度の高い新薬の上市が相次ぎ、全体の状況を下支えすると想定した。このようなことから、2016年には10兆1,140億円、2020年には9兆5,168億円、2024年には9兆5,040 億円と予測している。(編集担当:慶尾六郎)