ドイツは、2050年に国内電力需要の80%以上を再生可能エネルギーに代替していくエネルギー転換政策“Energiewende”を掲げており、風力発電、太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている。中でもドイツ北西部に位置するニーダーザクセン州は2015年時点で、ドイツで最も多くの風力発電量を有する地域である。
このように近年のドイツでの再生可能エネルギーの利用増大によって、従来、周波数維持など電力品質を維持してきた火力発電などが使われなくなってきているため、従来火力発電が担ってきた役割を代替する技術へのニーズが急速に高まってきている。また、ニーダーザクセン州をはじめ、ドイツ国内ではバランシング・グループ内でのインバランスの発生、局所的な系統電圧の不安定が問題になっている。そこで、このような問題を解決するために、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は同国のニーダーザクセン州経済・労働・交通省と協力し、「大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業」開始に向けた調整を行ってきた。
今回、NEDOとドイツ・ニーダーザクセン州経済・労働・交通省、同州内の17郡4市の電力供給を担う管理組織であるEWE-Verband、EEW Holdingは、「大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業」を実施することで合意、3月19日に基本協定書(MOU)を締結した。また同時にNEDOの委託先である日立化成、日立パワーソリューションズ、日本ガイシの3者とドイツの地域電力会社であるEWE AGは、同実証事業を共同で実施することで合意、協定付属書(ID)を締結した。
実証事業は、近年、再生可能エネルギー、特に風力発電が大量に導入されているドイツ・ニーダーザクセン州において、蓄電池の充電・放電により電力需給バランスを調整する電力系統の安定化に寄与できる大規模ハイブリッド蓄電池システムの構築と、このシステムを用いた新しい電力取引事業のビジネスモデル確立をめざす。
システムは、日立化成のリチウムイオン電池、日本ガイシのNAS電池、日立パワーソリューションズの「電力系統情報および蓄電池制御システム」を用いて構築する。高出力な充電・放電が可能なリチウムイオン電池、大容量で長時間の充電・放電が可能なNAS電池、これらの2種類の電池と、EWE AGの電力取引システムと連携しバランシング・グループ内外との情報のやりとりをする系統情報制御システムとの組み合わせにより、大規模ハイブリッド蓄電池システムを構築する。同システムにより、従来の火力発電代替機能としてのPrimary Control Reserve供給、Secondary Control Reserve供給、バランシング・グループ内でのバランシング、ローカルな電圧安定化に寄与する無効電力供給の4つの機能を実現し、EWE AGグループの電力取引システムにより電力取引を行う。
また、実証事業を通じて、同システムをドイツ国内外の発電事業者や電力取引事業者に販売する等のビジネスモデルを検討し、今後の普及をめざす。(編集担当:慶尾六郎)