蓄電池は、電気自動車用電源として、あるいは太陽電池と組み合わせた家庭用分散電源として、今後急速に需要が拡大することが予測される。しかし、現状のリチウムイオン電池(LIB)は、その優れた特性にもかかわらず蓄電容量もコストもほぼ限界に達しているという大きな課題がある。そのため、電気自動車の走行距離は限られたものとなり、家庭への普及にも妨げとなっている。
この壁を突破する切り札として期待されているのが「リチウム空気電池」である。リチウム空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い負極にはリチウム金属を用いることによって、理論エネルギー密度がLIBの5-10倍に達する「究極の二次電池」だ。これが実現できれば、蓄電容量の劇的な向上と大幅なコストダウンが期待できる。しかし、従来の研究は電池反応に関する基礎研究が中心であり、現実のセルにおいて巨大容量を実証した例はなかった。
こうしたなか、国立研究開発法人 物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点 ナノ材料科学環境拠点 リチウム空気電池特別推進チームの久保佳実チームリーダー、野村晃敬研究員らの研究チームは、リチウム空気電池の空気極材料にカーボンナノチューブ(CNT)を採用することにより、従来のリチウムイオン電池の15倍に相当する高い蓄電容量を実現した。
今回、研究チームでは、現実的なセル形状において単位面積当たりの蓄電容量として30mAh/cm2という極めて高い値を実現した。この値は、従来のリチウムイオン電池(2mAh/cm2)の15倍に相当するもの。この成果は、空気極材料にカーボンナノチューブを用い、空気極の微細構造などを最適化することによって得られた。巨大容量の実現には、カーボンナノチューブの大きな表面積と柔軟な構造が寄与していると考えられるとしている。また、このような巨大容量が得られたという事実は、従来の考え方では説明が困難であり、リチウム空気電池の反応機構の議論にも一石を投ずる可能性があるという。
今後、この成果を活用し、実用的なレベルでの真に高容量なリチウム空気電池システムの開発を目指し、セルを積層したスタックの高エネルギー密度化、さらには空気から不純物を取り除くといった研究にも取り組んでいく方針だ。(編集担当:慶尾六郎)