既存建築物の総合的表彰制度、BELCA賞が発表

2012年02月20日 11:00

 今回で21回目となるBELCA賞が発表された。同賞は良好な建築ストックの形成に寄与することを目的に、適切な維持保全や優れた改修を実施した建築物のうち、特に優良な建築物の関係者を毎年度表彰するもので、ロングライフ、ベストリフォームの2部門からなる、日本初の既存建築物の総合的表彰制度である。今年は、ロングライフ部門で3件、ベストリフォーム賞で7件の計10件が受賞したという。

 ロングライフ部門の対象は、「建築物のロングライフを考慮した適切な設計のもとに建設され、長年にわたり継続的に維持保全を実施した、特に優秀な建築物で、建築後30年以上を経過している建築物」。今年の受賞建築物には、建物と景観とが共に維持されている長寿命ホテルの優れた事例として昭和53年竣工のザ・プリンス箱根本館や、かつては東洋一の図書館と言われた大正14年竣工の早稲田大学2号館が選ばれている。しかし中でも注目すべきは、大正13年に建設され、4年もの長期工事の結果ほぼ全面改修がなされた、阪神甲子園球場の受賞ではないだろうか。ベストリフォーム賞の方が相応しくも思えるが、外観は旧来の形状を継承し蔦も復活させていくなど、これまでと変わらぬ甲子園球場のイメージを残し、歴史と伝統を継承したいという、建築主の熱い想いを尊重したことでロングライフ部門での受賞となった。

 一方のベストリフォーム賞の対象は、「最近改修(リフォーム)された建築物で、その改修によって画期的な活性化を計った建物のうち、特に優秀な建築物で、改修後1年以上5年未満の建築物」。昭和初期から続いていた絹織物工場の移転を機に、その跡地を活用する中心市街地活性化プロジェクトとしてリフォームされた鶴岡まちなかキネマや、創建当時から学園の講堂としてだけでなく、地域住民に開放され、映画鑑賞の場として親しまれてきた芝学園の講堂など計7件が受賞している。

 こちらの部門での注目は、先日発表された平成23年度省エネ大賞において、リニューアル前と比較し、年間で約44%の大幅なエネルギー低減を実現し、省エネルギー長官賞を受賞したローム京都駅前ビルである。既存躯体の耐震性や快適性を向上させているだけでなく、空調や照明・屋上緑化など細部に至るまで最新技術で環境対策を実施。さらには、都市景観にまで配慮されたリフォームであることなどが、環境配慮型ビル再生のモデルプロジェクトとして高く評価されての受賞となっている。特筆すべきは、ロングライフ賞を含めた他の9件すべてが、大学やホテル・商業施設など、多くの人が出入りする公共性の高い建物であるのに対し、本件は一企業のオフィスビルであること。それだけに、オフィスビルでありながら、公共へ貢献度やクオリティーが非常に高いリフォーム・建物ということであろう。

 古くて歴史のある建物であれば、文化財の指定を受けることなどでその保存が図られる。しかし一方で、指定を受けない建物となると、所有者の意図に合わなければ解体されて真新しいものに建て替えられてしまう。結果、歴史や利用価値が十分にある建物が姿を消し、不揃いな建物が乱立、景観を乱すことにもなっている。こういう事態に歯止めをかけ、最後まで利用するという意識を高めることを促進するためにも、本賞が今後、さらに一般に周知される賞となることを願いたい。