10日公示、22日投開票で実施される衆議院議員選挙(定数465=小選挙区289、比例区176)が政権交代選挙になるのか、「憲法9条」(戦争の放棄)を含む改憲勢力が衆議院で3分の2を維持するのか、自公による安倍政権5年の裁定とともに、国民が衆議院各党の勢力分布をどのような図式に塗り替えるのか、大きな意味を持つ選挙となる。
憲法改正については自民党が「自衛隊の憲法への明記」「緊急事態対応」「衆議院の合区解消」「教育無償化」を中心に「党内内外の十分な議論を踏まえて、憲法改正原案を国会に提案、発議、国民投票し、初めての憲法改正を目指します」と取り組む重要案件として公約の柱に組みこんだ。
「国民の幅広い理解を得て、改正をめざします」とは明記しているが、安倍政権のこれまでの世論二分の案件(安保法制、特定秘密保護法、テロ等準備罪などの法案審議)を踏まえれば、審議時間を持って十分な議論と判断し、審議を打ち切り、採決に入ることは容易に予測できる。
希望の党、立憲民主党など新たな政党がたちあがったことで浮動票がどう動くのか、安倍政権打倒では希望の党、立憲民主党、日本共産党、社会民主党などは共有しているが、小池百合子都知事率いる希望の党は安倍政権打倒後の自民党との連立に「結果次第」と否定していない。
小池代表は記者会見で「憲法改正議論を真正面から行うことが、国にとって必要ではないかと判断している」と語った。公約にも「憲法9条を含む憲法全体の見直しを与野党協議で進める。自衛隊の存在を憲法に位置付けることに、国民の理解が得られるか見極めたうえで判断する」と書き込んでいる。
日本維新の会は「時代の変化に合わせ、わが国が抱える具体的問題を解決するために改正する」とし、9条については明記していないが「教育無償化、統治機構改革、憲法裁判所の設置の3点に絞り込み、原案を取りまとめたので、衆参両院の憲法審査会をリードしていく」と改憲に積極的。
日本維新の会は憲法9条との関わりでは「現行の平和安全法制に違憲の疑いありと指摘されている点について、自国防衛を徹底する形で、あいまいな『存立危機事態』を限定する」とし「武力攻撃に至らない侵害、いわゆるグレーゾーン事態が発生した場合、警察機関及び自衛隊が状況に応じて切れ目なく迅速に対応ができるよう国境警備法を制定する」としている。
日本のこころは「日本への攻撃が行われる場合、攻撃を防ぐためには、先制して敵の発射基地を攻撃することが必要かつ効果的」とし「敵基地攻撃能力の保有」をあげているほか、重点政策筆頭に「自主憲法制定をめざす」としている。柱は「憲法上の天皇の位置付けを検討、国家緊急権に関する規定の整備、自衛のための戦力の保持、憲法改正発議要件の緩和」を特に列記。
こうした改憲勢力に対し、枝野幸男元官房長官率いる立憲民主党は憲法9条について、自衛隊を明記することは許されるものではないとする。枝野代表は6日の記者会見でも「憲法違反の安保法制を上書きする形で、安倍政権がさらに進めようとしている憲法改正とりわけ第9条改正には反対」とする市民連合と基本的に合意していることを語った。同様の姿勢は日本共産党、社会民主党も共有する。
自衛隊の憲法への明記について与党の公明党も否定こそしないが、慎重姿勢。「憲法9条1項2項は、憲法の平和主義を体現するもので、今後とも堅持する」とし「自衛隊の存在を憲法上明記し、一部にある自衛隊違憲の疑念を払拭したいという提案がなされている」と安倍晋三自民党総裁の提案を示したうえで「意図は理解できないわけではないが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を支持しており、憲法違反の存在とは考えていない。大事なことは平和安全法制の適切な運用と実績を積み重ね、国民の理解を得ていくことだ」と距離を置いた。
日本共産党は「憲法9条に自衛隊を書き込もうという改憲案は、単に存在する自衛隊を憲法上追認するだけではない。『後からつくった法律は、前の法律に優先する』というのが法の一般原則(後法優先の原則)だ」と指摘。
「たとえ9条2項(戦力不保持・交戦権の否認)を残したとしても、別の独立した項目で自衛隊の存在理由が明記されれば、2項が空文化=死文化することは避けられない」と改憲反対理由を説明する。
改憲勢力が衆議院で3分の2を維持するか、しないかは、憲法改正、とりわけ憲法9改正へ動くのか、どうかの重要な選択となる選挙になる。(編集担当:森高龍二)