EVシフトが止まらない。が、内燃機関の自動車も、まだ“死な(ね)ない”

2017年12月04日 06:37

Nissan_LEAF

日本を代表するEV、新型「日産リーフ」、写真は最上級の「リーフG」で価格は399万0600円

 自動車の電動化が加速しているというニュースが世界中を駆け巡っている。独仏英が相次ぎガソリンエンジンだけを動力とする自動車の製造を近い将来に禁止すると発表し、中国でも喧伝される自動車の電動化シフトだ。「EVバブル」という言葉さえもが生まれるほど、電動自動車の社会に向けて、熱い視線が注がれている。

 たしかに、米カリフォルニア州ではZEV(ゼロエミッションビークル)の定義をより厳しく規制し、中国でも2018年以降に、「EV」(バッテリーだけ動くPure EV)、「プラグイン・ハイブリッド車」(PHEV)、「燃料電池車」(FCV)などの新エネルギー車の大幅な導入目標「新エネルギー車(NEV)」規制を示す予定だ。4月に発表した中長期計画では2016年に50万台にとどまったNEVの販売を2025年に従来計画の2倍弱にあたる700万台に上方修正した。同様に中国政府は、2018年から自動車メーカーに、一定比率のNEVの製造販売を義務付ける規則を導入する方向で調整を進めている。

 インドでも中国のNEV規制と同じような動きがある。

 ドイツでは、2016年10月に「COP21」を睨んだ恰好で連邦議会が、「2030年までに、“内燃機関だけ”を動力とする自動車を禁止する決議案」を出した。この決議、法的拘束力は無いものの、その後、欧州各国に与えた影響は大きい。

 翌、2017年7月には、英仏両国が、2040年までに内燃機関だけを動力とする自動車販売を禁止する政策を相次ぎ発表。さらに、スウェーデンのボルボ・カーズは、2019年以降に発売するすべてのクルマを電動化すると宣言した。

 このようなメディアによる報道に接すると、あたかもすべてのクルマがEVになって、将来的に内燃機関を搭載したクルマが無くなってしまうかのような錯覚に陥る。また、EVが主流になると、部品点数も少なく、モーターとバッテリーだけで簡単に作れるので、サプライヤーを含めた“日本の自動車産業の将来が、危うい”と懸念を示す専門家も多い。

 欧州の自動車各社は従来、ディーゼルエンジンを自動車パワーユニットの主流としていた。そのため、ガソリンエンジンとモーターを組み合わせたHVを主流とする日本車が、欧州市場になかなか食い込めない大きな壁だった。

 ところが、2015年に独フォルクスワーゲン(VW)の排気ガス不正事件が発覚。ディーゼルエンジン車の消費者離れが予想され、欧州自動車各社に危機感が生まれた。これが欧州の自動車の電動化へ舵を切る、きっかけとなったのではないか。

 国際的な自動車電動化に向けて、日本の自動車各社も開発を加速させる。トヨタは、中国においてトヨタ・ブランドの電気自動車を2020年に導入するとともに、燃料電池自動車のフィージビリティスタディの対象をバスなどの商用車まで拡げることを発表した。

 現在、トヨタは中国向けの「カローラ」と「レビン」のプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の導入・開発を進めており、今回発表したEV導入とFCVフィージビリティスタディの対象拡大と併せ、中国における車両電動化への取り組みを加速させていくという。トヨタは、「ハイブリッドで培った技術を活かし、中国で求められる新エネルギー車の開発を全方位で進めていくというのだ。

 FCVについては、「トヨタ自動車研究開発センター(中国)/TMEC」内に新たに水素ステーションを設置し、10月より燃料電池車「MIRAI」2台による3年間の実証実験を開始。商用車分野においては、日本で燃料電池バスを発売、米国ではFCシステムを搭載した大型商用トラックの実証実験を進めている。そこで、今回中国でも、バスなど商用車までフィージビリティスタディの対象を拡げ、中国での燃料電池技術の応用可能性を探っていく。

 トヨタは現在、オーストラリア、アラブ首長国連邦、カナダなどの国においても、試験的な導入による実証実験を進めており、さまざまな環境下での実証実験を通じ、水素社会の実現を目指している。

 トヨタは従来から全方位で車両電動化を進めており、中国においてもハイブリッド・ユニットの現地生産化を進め、現地に根差した車両電動化への取り組みを進めている。

 また、トヨタとスズキは業務提携・協業として、インド市場における車両電動化技術の普及についても協議を繰り返してきた。その結果、両社は2020年頃にインド市場向けに電気自動車を投入するための協力関係構築に向け検討を進める。具体的には、インド市場向けにスズキが生産するEVに、トヨタが技術的支援を行ない、その車両をトヨタへ供給することに加え、充電ステーションの整備や、販売網におけるサービス技術者の教育を含めた人材育成、使用済み電池の適切な処理体制の整備、インドにおけるEVの普及のための活動について、総合的に検討を進めるという。

 ところが、独メーカーなどで別の動きもある。独・メルケル首相は先般、フランクフルト・ショーで、主力のディーゼル車の改良と電気自動車への投資を同時に進める「二正面作戦」が必要と述べたのだ。英仏は2040年までにディーゼル車・ガソリン車を禁止する方針だが、自動車大国の独は雇用に配慮しつつ緩やかな転換を目指す。メルセデス・ベンツやBMWもディーゼル車、EV双方の技術の重要性を訴えた。

 メルケル首相は新エネルギー車の研究開発により積極的に取り組むべきだと指摘。その一方で、ディーゼル車などは、「まだ数十年にわたって必要になる」とも述べた。ディーゼル車は、独自動車産業にとって当面必要な技術だとの立場を明確にした。内燃機関の自動車は、“まだ死な(ね)ない”。(編集担当:吉田恒)