「Formula(フォーミュラ)E」、2014年9月から開催されている電気自動車、しかもフェンダーが無いオープンホイールデザインのフォーミュラカーによる国際レースだ。フル電動のレーシングフォーミュラで、ガソリンなどの化石燃料を使わずに戦う。要するに伝統的な自動車レースに必須だった内燃機関(エンジン)を搭載しない、電動レーシングカーで覇権を競うレースである。
フォーミュラEは、自動車レースの最高峰「フォーミュラ1世界選手権(F1)」や「世界ラリー選手権(WRC)」などを主催する、国際自動車連盟(FIA)が創設し、フォーミュラEホールディングスが運営する。搭載するバッテリーの電力でモーター駆動するため、極めて静かな環境でレースが進行する。聞こえるのはモーターが静かに唸る音と、タイヤのスキール音、そして観客の歓声だけだ。排気ガスやオイルの臭いとは無縁で、レースは香港やモナコ、パリやニューヨークなど、すべて市街地の公道コースで開催される。
初年度、2014-2015年開催のシーズン1は実験的で、「スパークルノーSRT_01E」のワンメイクレースだった。が、2年目からはチーム独自のパワートレーンを搭載することが可能となった。
現在のところ、リチウムイオン電池の容量に限界があり、決勝レース全行程を全速力で走行すると、“電欠”で完走できない可能性が高い。ドライバーには、電力消費量(残量)を睨みながらの冷静なドライブが要求される。
こうした要求に応えるには、インバータを使ってバッテリーからモーターに無駄なく適切な電力を供給することが必要だ。インバータは電力変換の中核部品で、パワーエレクトロニクス回路の設計や搭載部品の性能がマシンの電力損失や駆動効率に大きく影響する。
つまり、フォーミュラEマシン開発にとって、パワーエレクトロニクス回路の構築と電力損失を極限まで低減するパワー半導体の採用が極めて重要な要素となるわけだ。
そこで、フォーミュラEチームは技術開発パートナーとして有力な電子機器メーカーと手を組む。英ジャガーチームは、日本のパナソニック<6752>とタイトルスポンサー契約を結び「パナソニック ジャガーレーシング」として参戦している。
また、パワーデバイスおける世界のリーディング企業である京都のローム<6963>もヴェンチュリー(Venturi)フォーミュラEチームとシーズン3から3年間のテクノロジー・パートナーシップ契約を締結。ロームは、マシン駆動の中核を担うインバータに世界最先端のパワー半導体であるSiCパワーデバイスを提供し、小型・軽量化、高効率化をサポートする。
シーズン3で、ロームが提供したパワーデバイスは、ダイオード(SiC-SBD)の提供だけだったが、シーズン4よりトランジスタとダイオードを同梱したフルSiCパワーモジュールを提供する。これによって、SiCを搭載する以前、つまりシーズン2のインバータと比較して、43%小型化、6kgの軽量化を実現した。
日本のエレクトロニクス先端企業がフォーミュラEのパワーユニット開発の根本であるパワーマネージメント分野で、その技術力を競うというわけだ。
現在フォーミュラEには、ドイツ勢が本格参戦を続々発表。アウディは、「2017-2018年、シーズン4」からアウディ・ワークスとして本格参戦する。メルセデス・ベンツは、2017年7月24日に、「2019-2020年、シーズン6」からの参戦を発表。メルセデスはフォーミュラEを車両電動化技術の実証実験の場とする予定だ。
BMWは、現在フォーミュラEに参戦している「アンドレッティ・チーム」を引き継いで、「2018-2019年、シーズン5」から本格的に取り組むと表明した。
また、ルマン24時間レースに代表されるWEC(世界耐久選手権)優勝の常連軍団のポルシェも、「2019-2020年、シーズン6」から参戦することを決めた。このポルシェの参戦で、フォーミュラEに独・大手が顔を揃える。
そして遂に日本メーカーも名乗りを上げた。世界量販EV最大企業、日産が東京モーターショー2017・プレスデーに、2018-2019年のフォーミュラEシーズン5から、日系自動車メーカーとして初めて「FIAフォーミュラE選手権」に参戦することを発表した。日産は、この9月に第2世代の新型EV「日産リーフ」を発表し、国内EV量産メーカーとして先行している。
シーズン4の開幕は本日香港でスタートし、翌年7月まで、ベルリン、パリ、ニューヨーク、モントリオールなど世界10都市で開催される。シーズン5となる2018-2019年には日本でも公道レース「フォーミュラE」開催との噂もある。ホンダやトヨタなど日本メーカーがモータースポーツに押し寄せる電動化の波にどう対応するか、注目が集まる。(編集担当:吉田恒)