日銀発表の資金循環統計を基にした推計によれば、家計の保有する外貨建ての金融資産が1年半ぶりに50兆円を超えた。これまで外貨建ての金融資産は為替リスクを警戒して敬遠される傾向にあったが、長引く超低金利の影響で家計資産を海外にシフトする動きが本格化しつつある。
家計資産を外貨建てにすることにはいくつかのメリットがある。外貨建ての金融商品を購入し、売却の際に購入時よりも円安が進んでいれば為替差益を得られる可能性がある。また日本円だけでなく、米ドルやユーロ、中国元などいくつかの外貨に金融資産を分散しておけば、もしいずれかの通貨の価値が下がっても、他の通貨の価値が相対的に上がるため資産の目減りが防げるというわけだ。ただし為替差益はあくまで購入時よりも売却時の方が円安である場合にのみ得られる利益であり、もし円高が進んでいた場合には為替差損が出てしまうデメリットにもなり得る。こうした理由から、家計の金融資産を外貨建てにすることに抵抗を覚える人は少なくなかった。
こうした意識を変化させたのが日銀の金融緩和政策と、それに伴うマイナス金利や超低金利だ。特に長期金利は0%程度に抑えることが決定され、日本円で金融資産を有していてもほとんど利息を受け取ることができなくなった。それだけでなく、物価上昇に伴ってインフレが起これば円建ての金融資産が目減りしてしまうことさえ考えられる。そんな国内超低金利に対する嫌気、インフレへの不安から家計の金融資産の外貨建てへの移行が加速しているのだ。
世界的な傾向として超低金利政策はやむを得ない。しかし円建ての金融資産への不安が続くと日本経済へ深刻な影響を及ぼす恐れもある。高齢化社会にあって、特に高齢者の貯金や資産の多くが外貨建てになっていけば、外貨の価値の下落によって資産を失う高齢者が続出することも否定できないのだ。すべての人が安心して資産運用ができるよう、官民一体となった政策が必要になるだろう。(編集担当:久保田雄城)