止まらない大工不足問題。地域ビルダーが変われば、 家づくりも変わる?

2019年05月06日 14:05

画・60代前半のフルタイム就業比率は上昇傾向。内閣府レホ_ート。

国税調査によると、1980年に93万人いた大工は、2015年には35万人にまで減少しており、2030年には20万人になると予測されている

 多くの業種で人手不足や後継者不足が悩みの種となっているが、中でも住宅の建設を担う大工の人手不足は深刻だ。

 国税調査によると、1980年に93万人いた大工は、2015年には35万人にまで減少しており、2030年には20万人になると予測されている。住宅の着工戸数自体も年々減少傾向にあるものの、大工の減少はそれをはるかに上回っており、このままではその少ない需要にすら対応ができなくなる可能性も高い。

 大工不足の最も大きな問題は、高齢化だ。現在、大工の約4割は60歳以上と見られ、10代、20代の大工は1割にも満たない。少子化が進んでいることに加え、不安定な請負仕事よりも、月給制で、福利厚生のある安定した生活を望む傾向が、若者たちの間で強くなっていることが拍車をかけている。

 大工不足対策としては、外国人労働力の受け入れや、最新機器やロボット、ITなどの導入による施工の効率化や生産効率の向上などが考えられるが、やはり何よりも大切なことは「大工の人数自体を増やすこと」だろう。労働環境の改善や雇用形態、育成方法の検討など、職業としての魅力が増せば減少傾向に歯止めをかけることもできるかもしれない。

 とくにカギを握ると思われるのが、工務店などの地域ビルダーの在り方だ。日本の住宅の7割は、この地域ビルダーが供給しているといわれているが、今後、大工の減少が加速すれば、近い将来、受注は出来ても施工ができないという地域ビルダーも増えてくるだろう。しかも、暮らし方や住まい手のニーズも多様化している中、住まい手の要望に応えることは益々困難になる。大工の育成は地域ビルダーの経営にとっても死活問題なのだ。

 そんな中、この問題に対して既に積極的に動き出している地域ビルダーも現れ始めている。

 例えば、株式会社アキュラホームは、「工務店・ビルダーが変われば、日本の家づくりが良くなる」との考えから、25年前に約450社の地域工務店やビルダーが参加する日本最大のホームビルダーネットワーク・ジャーブネットを発足。そのスケールメリットを活かして、地域密着型ビルダーが、良質な住まいをより安く提供するシステムを構築してきた。

 そんな同社は今年、地域工務店の活性化を図るため、自ら実践し、培った、住宅事業における経営の原理原則と、経営戦略についての実践成功ノウハウを、次世代を担う経営者に向けて公開し、志高い経営者に対しては、経済的支援も行う全国キャラバンを4月10日から始動している。

 もともと、同社代表取締役社長の宮沢氏は15歳で修行に入り、19歳で工務店として独立した元大工。それだけに、昨今の状況については大工側、会社側、双方の心境や課題が理解できるのかもしれない

 また、愛知県の株式会社新和建設では、入社から6年間、社員として大工研修の過程を訓練校で教育し、その後は大工棟梁または職人として独立させるという、手厚い大工教育システム「大工育成ビジネスモデル~素材のわかる匠の技 伝承ビジネスメソッド」を導入しており、2015年にはグッドデザイン賞も受賞している。閉鎖的な師弟制度のイメージを払しょくし、安心して技術を取得できる環境は、今どきの若者たちにも好評のようで、順調に新しい世代の大工を輩出しているという。しかも、新和建設では研修後の同社への専属を義務付けていない。

 後継者不足、人手不足は確かに深刻な難題ではあるが、ここに挙げた両社の事例のように、まだまだやれることもあるのではないだろうか。日本の大工は、他国の職人が見ても驚くほど高い技術を持っているという。その技術が廃れてしまわないことを願うばかりだ。(編集担当:藤原伊織)