高齢者ドライバーのペダル踏み間違いなどによる、重大な死傷交通事故への対策として、運転技能を調べる実車試験を導入する検討を警察庁は始めたという。
高齢者を対象にブレーキやアクセルの操作を試験し、運転操作技能に問題があれば、自動ブレーキなどの安全機能を備えたクルマに限って運転を認める「自動ブレーキ限定免許」制度発効を目指すための検討だ。運転操作ミスが高齢者による死傷事故の原因とみて、事故のリスクの軽減を狙う。
警察庁公安委員会によれば、75歳以上の運転免許保有者は2018年末時点で563万人。高齢化社会への急速な進行で、2020年に600万人に達する。75歳以上による死亡事故は18年に460件発生し、全体に占める割合が14.8%と過去最高で、重大事故も後を絶たない。
高齢ドライバーの事故を警察庁が分析した。原因の34%は、ステアリングやブレーキ操作ミスだったという。自動車メーカーでは、歩行者や障害物を察知すると自動でブレーキをかけるような安全運転支援システム装置の導入を進めており、新型車への搭載率は加速抑制機能が65.2%、自動ブレーキが77.8%だった。また、トヨタやダイハツなどは後付けの装置の商品化も進めている。
警察庁は「限定免許」にために2020年度予算の概算要求に調査費2700万円を計上するという。高齢者向けの限定免許は早ければ2021年度に創設される見通しで、実車試験も同時期の導入を念頭に進めるとしている。
現在は75歳以上のドライバーを対象に免許更新時に認知機能検査を義務付け、検査を経て医師に認知症と診断されれば免許停止になる。「運転外来」科を全国に先駆けて開設した高地市の愛宕病院によると、現在実施される一般的な認知症検査は30点満点のMini-Mental State Examination(MMSE)・改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を利用しているという。しかし、これでは詳細な認知機能は分かりにくく、愛宕病院では100点満点の日本語版Addenbrooke’s Cognitive Examination Revised (ACE-R)を利用している。その検査の結果、認知症予備軍である軽度認知障害(MCI)が疑われる高齢者の増加に対処するため、専門家から実車試験の導入を求める声が上がっていた。
実車試験の対象者は認知機能検査を受ける高齢ドライバーで、アクセルとブレーキの踏み間違いや、対向車線へのはみ出しといった危険な運転の兆候がないかどうかなどを調べる。20年度の調査ではこうした危険な運転について、クルマに搭載する安全支援機能で制御できるかどうかを実証するという。
限定免許の創設は、相次ぐ事故を受けて政府が6月の緊急対策に盛り込んだ。ドイツやスイス、オランダといった先行して欧州の限定免許導入国では、医師による診断や実車試験の結果などに基づき対象者を決めている。果たして日本国内では……。(編集担当:吉田恒)