SUBARUの運転支援システム「i-Sight」の障害物センシングイメージ、交通事故総合分析センターのデータを基に独自算出したところ、日本国内においてアイサイト搭載車は非搭載車に対し、1万台当たりの人身事故発生件数が61%減となったという。また車両同士追突事故に限ると84%減という結果が出ていた
2018年、全国で起きた交通死亡事故が過去最少になった。その一方で、75歳以上のドライバーが起こした死亡事故は460件と、前年比10%増だったと警察庁が発表した。
警察庁の発表によると、昨年全国で起きた交通死亡事故は3449件と、1963年(昭和38年)以降、最も少なくなった。しかし前述のとおり、高齢者ドライバーに起因した死亡事故は、前年より42件増えた。また、車などが第1当事者の死亡事故全体に占める割合は14.8%に上り、過去最高だった。
高齢者が運転するクルマによる事故が社会問題化し、75歳以上のドライバーの認知機能検査が強化された。が、その後も死亡事故の件数は高い水準のままだ。報道などをみると、多くはペダルの踏み間違いによる暴走が多くの原因で、メーカー各社は自動ブレーキなど、安全運転支援システムの装備を進めている。
そんななか、国連欧州経済委員会(ECE)が、世界40カ国の国や地域で、衝突被害軽減ブレーキ、つまり前述の「自動ブレーキ」搭載を義務づける規則の原案に合意したと発表した。乗用車や軽商用車に標準装備を義務づけ、2020年はじめにも適用を始める。高齢者の誤操作みすなど、交通事故の発生防止や被害軽減を目指す。
搭載を義務づけるのは、「AEBS(Advanced Emergency Braking System」と呼ばれる予防安全技術で、対人対物衝突事故における被害軽減効果が高いとされる衝突被害軽減ブレーキシステム、いわゆる「自動ブレーキ」だ。
機能としては、おおむね走行中にカメラやレーダーで前方の人や障害物を検索し、危険と判断した場合は警報で運転車に知らせ、それでもドライバーがブレーキ操作を行なわない場合、自動で車両を止める機能だ。
ECEでは、多くの国に参加を呼びかけ2019年中にも正式に発効させたいとしている。
ECEによると、AEBSを搭載車は低速走行時の衝突を38%減らし、EU内だけで年間1000人超の命を救うことができると試算する。義務付けが始めるとEUで年間約1500万台以上、日本で約400万台以上の新車が対象になる。
「AEBS」については日本では早期に研究開発が進み、すでに6割以上の新車に自動ブレーキを含めた運転支援装置が搭載されている。もっとも開発および装備が早かったのは、2008年に発表されたSUBARUレガシィに搭載した安全運転支援システム「i-Sight」(アイサイト)だ。
2016年の末、当時富士重だったSUBARUによると、公益財団法人交通事故総合分析センターのデータを基に独自算出したところ、日本国内においてアイサイト搭載車は非搭載車に対し、1万台当たりの人身事故発生件数が61%減だったという。また車両同士追突事故に限ると84%減という結果が出ていた。トヨタでも夜間の歩行者に対応する自動ブレーキを含めた「Toyota Safety Sence」標準搭載車を網羅。ホンダなども安全運転支援装置「Honda Sensing」を積極導入している。政府は2020年に9割の新車に搭載することを目標に掲げる。
今回の国連による規則制定は、背景に事故防止や被害軽減に国際的なルール整備が急務との認識があるようだ。
今回の規則制定には日欧のほか韓国やロシアが参加する一方、米国や中国、インドは傘下していない。日欧などへのクルマの輸出を考えると、規則対象外の国々のメーカーも標準搭載に動くことも考えられる。
国内では山形県舟形町が、安全性を高める狙いで、「自動ブレーキ」を搭載した車の65歳以上の購入者である町民に5万円を補助している。昨年4月に導入した。同町は町営バスを廃止し、事前予約で乗り合うデマンドタクシーを導入したが、それでも自ら運転せざるを得ない高齢者は多く、自動ブレーキ搭載車の購入を促している。
同町の高齢化比率は4割近くに達し、車の新規購入者の多くが高齢者。補助制度については周辺の自動車販売店から問い合わせが相次ぎ、町民限定制度として周知を始めているという。自治体による優遇策も顕在化するかもしれない。(編集担当:吉田恒)