進化するワイヤレス充電

2011年12月12日 11:00

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画期的な商品として注目を集める、日立マクセルのワイヤレス充電器「エアボルテージ for iPad2」のモジュール部分の開発は村田製作所が担当。(写真は村田製作所の技術・事業開発本部の郷間真治氏)

 現在、日本市場ではワイヤレス充電のニーズが加速度を増して高まっている。特にビジネスシーンにおいて酷使されるモバイルやタブレット端末は、気が付くとバッテリーが無くなっていることが多い。充電する行為そのものは簡単なことだが、「習慣になると煩わしいと感じる」という声もよく聞かれる。

 モバイル端末に電源ケーブルをつながず、専用充電台に置くだけで充電できるワイヤレス給電システムには「Qi」(チー)がある。このシステムは送り側と受け側の機器にそれぞれコイルを内蔵し、双方のコイルの間に磁気を発生させることで送電するという「電磁誘導方式」。非接触電力送電の方式としては比較的古くから利用されており、コードレス電話や電気シェーバー等の採用されていた。

 しかし、「電磁誘導方式」で構成されている「Qi」(チー)はスマートフォンでは一部モデルに搭載されているものの、タブレット端末には電力容量が足りず対応していない。タブレット端末に関して今年6月のMMD研究所(モバイルマーケティングデータ研究所)が実施した「認知度及び満足度調査」によると、約23.8%が所有。また、そのタブレット端末所有者の84.6%がiPad(iPad2を含む)を利用しているなど、その需要の高さがうかがい知れる。

 そのような中、タブレット端末ユーザーの要望に応えようと満を持して登場したのが、日立マクセルのワイヤレス充電器「エアボルテージ for iPad2」だ。この「エアボルテージ for iPad2」には、世界で初めて「電界結合方式」が採用されている。

 この「電界結合方式」とは、送電側と受電側のどちらにも電極を設置し、電極が近接したときに発生する電界を利用してエネルギーを伝送する技術。電磁誘導方式などに比べて伝送効率が高く、ひとつの充電台に対して複数の機器や端末を対応させることが可能だ。この製品のモジュール部分を担当している村田製作所の技術・事業開発本部、郷間真治氏は「電界結合方式は位置自由度が高く、充電台と端末の電極をぴったり合わせなくても充電が可能なため、このエアボルテージ for iPad2は、iPad2を専用スタンドにポンと置くだけで充電ができます」と語る。iPad2本体にはエナジーカバーをはめ、専用のエナジースタンド上に置いたとき、4cm以内のズレは問題ないという。さらにスタンドに置いた状態でもiPad2を使用でき、縦置き・横置きのどちらでも充電できる。

 「電界結合方式」は村田製作所によって開発され、2010年6月に送受電モジュールの開発が発表されている。今回、この方式を使いiPad2用のワイヤレス充電対応器を開発した理由として郷間氏は「2008年に電界結合方式の開発をスタートして以来、基礎開発を進めながら試作品を作り続けていました。さらに普及率が高いiPad2対応のものが無いことに着眼点を置き、電界結合方式ワイヤレス電力伝送モジュールを使った充電器を日立マクセルさんに提案したのが1年半ほど前、その後両社で綿密なディスカッションと技術的な向上をはかり製品化につなげました」。

 現在、この充電器はスタンド式のみの販売だが、今後は机全体が充電器で、そこにiPad2だけでなく、モバイル端末やパソコンなども同時にただ置くだけで充電できるようなモデルの開発も継続中だという。「電磁誘導方式だと、充電台のコイルと端末のコイルの中心を合わせて置かないと充電できませんが、この電界結合方式だと、電極を完全に重ねなくても伝送効率の高い充電ができます。今後の展開の大きさで考えると、他の方式にはない面白さが電界結合方式にはありますね。また、伝送部には電極を使用しますので、充電器自体をスケルトンにすることも可能。デザイン性の高いインテリアとしても映えるので、若い世代への発信力も高いと思います」と郷間氏。

 「エアボルテージ for iPad2」は画期的な製品として注目を集めているが、「将来的には駐車場の床に埋め込み、EV車が上に乗るだけで充電できる充電器も可能ではないかと思います」。村田製作所の開発チームはすでに同製品を進化させた、電界結合方式を利用した新たなソリューションへの開発に力を注いでいるようだ。