障がいを感じない、感じさせない社会の実現。ソニーや積水ハウスなどが加盟する「The Valuable 500」とは?

2020年11月01日 09:37

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日本でもこのような思想に共感し、「障がい者も当たり前に活躍できる社会」の実現に向けて、本腰を入れて動き出す企業が現われ始めている

 内閣府が発表した「令和2年版 障害者白書」によると、日本国内の身体障害者(身体障害児を含む)は436万人、知的障害者(知的障害児を含む)109万4千人、精神障害者419万3千人となっている。複数の障害を併せ持つケースもあるため単純な合計にはならないものの、およそ国民の7.6%が何らかの障害を有していることになる。

 安倍内閣時代から政府が進めている「一億総活躍社会の実現」に向けた取り組みの中でも、障がい者が今よりももっと活躍できる、活躍しやすい社会を実現することは最重要項目の1つとして掲げられている。少子高齢化の進む現代社会においては、障がい者が働きやすい社会環境をつくることは、障がい者個人の生活面を充実させるだけでなく、社会の担い手の一人として、国や企業を支える大きな力になるのだ。

 「令和2年版 障害者白書」によると、2019年6月1日現在の障害者雇用状況は、雇用障害者数が16年連続で過去最高を更新している。2018年に法定雇用率が2.2%に引き上げられたことにより企業が障がい者の雇用を増やしたためである。障がい者に活躍できる機会が与えられ、雇用促進のきっかけになるという点で、この法律改正が大きな功績であることは間違いない。

 一方、スウェーデンやデンマークなどでは日本のように法定雇用率がなく、当然、義務も罰則金のようなペナルティもない。ところが、障がい者は健常者と同じように、普通に社会で働き、企業に雇用され、活躍し、能力を発揮している。彼らにとってはむしろ、障がい者を特別扱いすることの方が不自然なのだ。

 実は、日本でもこのような思想に共感し、「障がい者も当たり前に活躍できる社会」の実現に向けて、本腰を入れて動き出す企業が現われ始めている。

 その大きな転機となったのが、2019年1月開催の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「インクルーシブなビジネスはインクルーシブな社会を創る」という考えのもと立ち上げられた「The Valuable 500」という活動だ。これは、障がい者がビジネス・社会・経済において自らの潜在的な価値を発揮できるような改革を、ビジネスリーダーが起こすことを目的としたもので、現在、世界の主要企業330社以上が加盟しており、将来的には500社の企業の賛同を得ることを目指している。

 日本企業ではSONY〈6758〉や積水ハウス〈1928〉などが「The Valuable 500」に加盟している。

 ソニーでは、「障がい者だからという特権なしの厳しさで、健丈者の仕事よりも優れたものを」との創業者の一人である井深大の理念を受け継ぎ、「障がいを感じない、感じさせない、働き甲斐のあるソニーらしい障がい者雇用」の実現に向け、様々な活動に取り組んでいる。例えば、障がいの有無に関わらずキャリア構築ができるインクルーシブな職場環境づくりや、小中学生に科学の楽しさを直接体験してもらう「インクルージョンワークショップ」を開催。また日本のソニーグループが40年以上にわたって培ってきた障がい者雇用のノウハウを日本のグループ各社だけでなく、中国、タイ、マレーシアの工場に展開し、グローバルに障がい者雇用を促進している。

 積水ハウスは、1975年に発生した転落事故で同社の工事従事者が脊椎損傷の重傷を負ったことをきっかけに、1981年には国内初の「障がい者モデルハウス」を建設するなど、早くから、障がい者が暮らしやすい社会の実現に動いてきた企業として知られている。雇用面でも同様で、2014年には、障がいのある従業員の活躍を推進する施策として、地域勤務職から総合職への転換を制度化。既に12人が総合職に転換し、意欲的に業務に取り組んでいるという。2015年からは全国のエリア毎に「ダイバーシティ交流会」を開始。障がいのある従業員同士が相談し合える関係づくりを構築するとともに、2020年2月からは、専門組織「人事部障がい者雇用推進室」を設置。2020年10月に「The Valuable 500」へ加盟したことで、さらなる深化が期待できそうだ。

 もちろん、障がい者雇用の推進はソニーや積水ハウスなどの大企業だけの課題ではない。中小企業や地元のスーパーやコンビニ、小売店や飲食店などにおいても、障がいを持つ人たちが当たり前に働くことのできる社会の実現が望まれている。ある経営者の私見だが、いざ雇用してみると、障がいを持たない従業員よりもよっぽどまじめで、集中して仕事をしてくれるので、最も信頼できる社員になっているという。

 日本でも、スウェーデンやデンマークのように法定雇用率などなくても、障がい者が当たり前に雇用される時代が、もうそこまで来ているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)