ヤマハ発のスポーツ助成対象者、近代五種の黒須選手が五輪代表選手に

2011年11月09日 11:00

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近代五種でロンドン五輪への出場権をいち早く獲得した黒須成美選手。公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)が実施するYMFSスポーツチャレンジ助成の対象者として初のオリンピック選手となる。

 ロンドン五輪の開催まで1年を切り、各競技で代表選手の選考レースも激しさを増している。五輪出場という目標を掲げて4年間を過ごしてきたアスリートたちにとっては、今がまさに正念場といったところだろう。

 そのような中、いち早くロンドン五輪への出場権を獲得したアスリートもいる。近代五種で五輪への出場権を獲得した黒須成美選手もその1人だが、彼女は公益財団法人ヤマハ発動機スポーツ振興財団(YMFS)が実施するYMFSスポーツチャレンジ助成の対象者だ。このスポーツチャレンジ助成とは、アスリート、指導者、審判、スポーツジャーナリストなど、スポーツに関連する幅広い分野から、自己の夢実現に向けてキャリアアップやスキルアップを目的とした各種体験に対して助成金を交付するという制度だという。「助成対象となる活動は、競技活動はもとよりスポーツ文化、ジャーナリズムなど広くスポーツに関連する活動が対象。将来の夢実現にチャレンジする姿勢や熱意、そして自己の可能性を信じて、高い志、明確な目的を掲げ、目標を達成するための具体的なプロセスを持った体験内容に助成したいと考えています。チャレンジスピリットにあふれ、フロンティア精神、ユニークな視点を持ったチャレンジ体験・活動を期待します」と同振興財団の担当者は語る。

 黒須選手がYMFSスポーツチャレンジ助成の門を叩いたのは3年前のこと。日本ではマイナーな競技である近代五種でさらなる能力を高めようと考えた時、海外遠征の費用などを工面することはなかなか難しい。当時高校2年生だった黒須選手は父でありコーチでもある秀樹さんに付き添われて、面接会場に訪れ、学校帰りの制服姿で大勢の審査委員と対峙しながら、「必ずロンドン五輪に出場したい! 」と力強く宣言した。

 五輪切符をつかむに至った今年5月開催の「アジア・オセアニア選手権」では、得意のフェンシングで2位につけ、続く水泳と馬術で順位を落としたものの、4位のポジションから最終競技のコンバインド(ランニングと射撃の複合競技)に臨んだ。大会直前の怪我により十分な走り込みができなかったことから、ゴールまで残り200mを切ったところで「圏外」の7番手に落ち、その瞬間「気持ちが折れかかった」と振り返る。

 しかし、コースの外から展開を見守っていた父である秀樹さんにはある確信があった。「40mほど前を走っていた選手が、みるみるスピードを落としていました。ここでスパートをかければゴールの直前でかわせる」と。「”行くぞ、オリンピックに行くぞ”ってお父さんの声が聞こえた瞬間、この日初めて、気持ちと筋肉の連動がとれた気がしました。自分でもどこに力が残っていたのかと思えるくらいのスパートができて、残り5mというところで逆転することができたんです」と黒須選手も語る。結果、6位入賞した黒須選手は、日本女子選手として初めて近代五種で五輪への出場権を獲得した。

 地元・茨城県の練習施設が震災の影響で使えなくなり、現在は韓国に拠点を移して練習に励む黒須選手。「アジア予選をぎりぎりで通過したということは、オリンピックに出場する36選手で一番力がないということ」と現在の実力を分析しながら、「それでも韓国人のコーチには”本番までの成長によっては入賞も、メダルだって狙える”と言っていただいています。私もロンドンに行けて満足、という気持ちではありません」と話す。

 YMFSスポーツチャレンジ助成対象者でオリンピックに出場する選手は黒須選手が初めてとなる。欧州の強豪の多くが30歳代でピークを迎える近代五種競技。20歳でロンドンを迎える黒須選手は、おそらく出場選手中最年少になる。その若さをノビシロと捉え、自分自身の成長に期待する黒須選手の活躍に、同振興財団関係者はもとより、ぜひ注目したい。