高性能デバイスとして注目が高まるGaNパワー半導体(GaN HEMT)。高耐圧・低損失であり、省エネ化や高効率化が期待できる上、従来のシリコン(Si)製の半導体では実現できなかった大電力を扱う用途に適しているため、GaN HEMTは電源業界のゲームチェンジャーになり得るものと期待されている。
MarketsandMarketsの市場調査によると、GaN半導体デバイスの世界市場規模は2023年の211億ドルから、2028年までに283億ドルへと拡大し、同期間における市場の平均年成長率(CAGR)は6.1%で推移すると見込んでいる。しかし、GaN HEMTを使った電源設計には技術的な課題がまだ残されているのも現状だ。
現在、GaN HEMTを採用した身近なものとしては、ACアダプターやUSB充電器などが普及し始めている。従来品と比べて小型で軽量、かつ高出力ではあるものの、これらはあくまでGaN普及の糸口というべきもので、GaN HEMTは本来、電気自動車(EV)のオンボードチャージャー(OBC)やサーバー用電源など、電力容量がより大きな用途でこそ能力を発揮するものだ。しかし、これらの用途で普及が進んでいないのにはいくつかの理由がある。高周波駆動によるノイズの増大や、高精度なゲート駆動電圧制御が必要なこと、パッケージが扱い難いことや、結晶化や加工が難しい材料であることなど、技術課題が数多く残っているのだ。これらの技術課題を解決するためには、サプライチェーンが共同で解決に向けて取り組んでいく必要がある。
そんな中、注目されているのが、グローバル半導体メーカーのロームと、世界的な電源メーカーのデルタ電子(Delta Electronics, Inc.)との連携だ。両社は2022年にGaN HEMTの開発・量産における戦略的パートナーシップを締結。2023年にはその成果の1つとして、幅広い電源システムに最適な650V耐圧GaNパワーデバイスを共同で開発し、量産化を発表している。
デルタ電子は、2017年にGaNパワー半導体を使う電源の開発に着手した。しかし従来の設計プロセスと回路トポロジーでは、技術課題を解決できずにいたという。
一方、大電力領域に最適なSiCパワーデバイスで世界に知られるロームも、以前よりGaNパワーデバイスの開発に取り組んでいた。2022年3月には、業界最高の8Vまでゲート耐圧を高めた「150V耐圧GaN HEMT」の量産体制を整え、基地局やデータセンターなどの産業機器や各種IoT通信機器の電源回路向けに「EcoGaN(TM)」として発表している。しかし、その性能を最大限に発揮するためには高周波駆動する構成に最も適した電源回路の設計ノウハウが必要となる。
そこで、業界トップレベルの電源開発技術を持つデルタと、パワー半導体だけでなく制御IC技術にも知見を持つロームがパートナーとなった。今後さらに幅広い業界での普及を後押しするため、磁性部品やノイズ、熱といった技術課題を解決する電源回路の設計を両社で進めていく計画だ。
また、ロームの広報に問い合わせたところ、既にGaN HEMTの引き合いは多数きており、開発のすり合わせを始めているとのことだ。果たして、GaN HEMTは電源業界のゲームチェンジャーとなり得るのか。今後の動向にも注目していきたい。(編集担当:藤原伊織)