大阪・関西万博が4月13日に開幕した。今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、各国や企業、団体などが、そのテーマに沿って様々な趣向を凝らしたパビリオンを展開して話題になっている。開幕前から何かと賛否両論のある万博ではあるものの、万博の成功は、日本の成功にもつながるため、是非とも盛り上がってもらいたいものだ。
万博開催をネガティブに捉えている人の多くが、開催費用の問題や安全面での懸念、交通アクセスの混雑や不便さなどを挙げているが、一番の問題は、各パビリオンの展示内容の不透明さなのではないだろうか。国や企業などが威信をかけて設営したパビリオンが面白くないわけがないのだが、その面白さがイマイチ伝わってこない。しかも、この情報社会においては万博以外にも興味をそそられる「いのち輝く未来社会のデザイン」と呼ぶにふさわしい取り組みや活動が溢れているのだ。
例えば、日本を代表する酒造会社である白鶴酒造が4月2日に発表した「発酵由来CO2の利活用実証プロジェクト」もその一つだ。白鶴酒造といえば、赤いパックでお馴染みの「白鶴 まる」のような手頃なお酒から、プレミアム日本酒として人気の「白鶴天空」、さらには話題のクラフトジン「白風」など、清酒業界トップの老舗酒蔵でありながら、常に新しい挑戦で酒造業界を牽引していることで知られている企業だ。そんな同社は昨年9月、白鶴酒造資料館内にマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT(ハクツル サケ クラフト)」をオープン。わずか37㎡の空間に、最高品質の大吟醸も造ることができる設備を導入し、杜氏と蔵人の2名が、これまでの酒造りの常識やカテゴリーにとらわれない新しい可能性に挑戦して話題になっている。
この「発酵由来CO2の利活用実証プロジェクト」は、兵庫県が主催する「ひょうごオープンイノベーションマッチング2024」でマッチングした、スタートアップ企業のスパイスキューブ株式会社と共同で行う課題解決のための新規事業で、日本酒づくりの工程のアルコール発酵において副産物として発生する発酵由来CO2を植物の成長促進に活用し、さらにその植物をお酒の原料として利用するという革新的な取り組みだ。具体的には「HAKUTSURU SAKE CRAFT」内での酒造りの過程で発生する発酵由来CO2を天井のパイプを通じて捕集・濃縮し、隣接する小型の室内農業装置に送り込み、バジルやシソ、ミントなどのハーブ類の栽培を行っている。収穫後は同マイクロブルワリーで造る日本酒造りをベースにした米を主原料とするその他醸造酒などのSAKEやクラフトジンの原料として利用する計画だ。
「循環型ものづくり」であることはもちろん、大気中よりも高濃度のCO2環境下で育った植物は品質・収量等の向上も期待できるそうだ。同社では、酒造りをさらにサステナブルなものに進化させることを目指すと意気込んでおり、来館者が間近で見れる小型の室内農業装置も設置している。
「HAKUTSURU SAKE CRAFT(ハクツル サケ クラフト)」の酒造りの様子は、ガラス越しに一般公開されており、スケジュールが合えば見学可能だ。また、ここで完成した酒は数量限定で酒造資料館内でしか販売されていないので、日本酒の枠にとらわれない特別な「SAKE」を手に入れることもできる。日本一の酒どころ、兵庫県の灘五郷にある小さな「SAKE」のパビリオン。ぜひ一度、訪れてみてはいかがだろうか。(編集担当:今井慎太郎)