【コラム】安倍国葬儀への参列公費返還請求訴訟が佳境

2025年10月12日 09:05

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行政法・地方自治法が専門分野の学者が法廷で証言するといった裁判は全国で係争中の国葬儀裁判の中でも異例であり、どのような判決が下されるのかが注目されている

 奈良県の住民が2020年9月に日本武道館で行われた故安倍晋三氏国葬儀に当時の知事や議会議長が参列した際、旅費や日当などを公費で支出したのは違法だとして知事に対し、当時の知事と議長に支出額を県に返還せよと請求するよう求めた住民訴訟裁判が佳境を迎えている。来年2月に結審の予定。

 今月9日、9回目の口頭弁論が奈良地裁であり、国と地方の関係について行政法や地方自治法を専門とする龍谷大学の大田直史教授や原告自らが法廷で尋問に答えた。

 大田氏は国と地方公共団体の関係は「対等」であり「地方公共団体は住民の人権を保障し、その向上に努めるところにその存立目的を有している」とし、国との関係で使う交際費は「存立目的に適合することが求められる」と証言した。

 国と地方公共団体との関係について、大田氏は「憲法、地方自治法で規律されているが、1999年に成立した『地方分権一括法』は地方公共団体の自主性、自立性を高めることで『国と地方公共団体の対等関係を確立するもの。憲法92条の地方自治の本旨を具現化する法律』であり、その趣旨に照らせば、国との友好、信頼関係の維持を理由に交際に支出することは原則認められないと考えるべき」と専門的立場から答えた。

 また今回の国葬儀に大田氏は「友好関係の維持増進の趣旨とは違うのではないか。儀式の格付けを図るもののように思われる」と指摘。自治体の長や議会議長が列席させられていたことを踏まえた。

 また県議会議長が議会の議決を経て参列していた場合、公務と判断できるかとの原告側の問いには「公務であれば、全て良いというものではない」とした。

 原告側は国葬儀への参列に要した旅費、日当の支出は違法とする根拠について(1)国葬自体が違憲としている。弔意を強制、宗教的意味合いを持つ、国葬実施の法的根拠がなく、憲法19条、20条、21条に違反。違憲のものに公費で参列するのは違法。安倍氏個人を特別扱いし憲法14条にも違反と主張。

 また(2)国葬儀が違憲違法であるかどうかを別としても、国葬儀に参列することは「地方公共団体の業務の範囲外」であり、範囲外のものに公費支出するのは違法と訴えている。

 被告側は(1)について「国葬儀は内閣府設置法において内閣府の所管事務に『国の儀式』が規定されており、閣議決定で実施が決定され、合憲合法」(2)については「国葬に参列することは国との間での一般的な友好、信頼関係の維持増進を図るもので、住民にも資する(貢献する)。知事、議会議長が地方自治体のために行う『社会的儀礼の範囲内の業務』で違法でない」と反論している。大田氏は「内閣府設置法は『組織法』であって、法的根拠にはなりえない」と証言した。

 原告で奈良県三宅町議の松本健氏は国葬儀について「(世論が2分する中)国(政府)から招待があれば行くというのは国の下請けのようなこと。(参列することが県民、県にとって)プラスかマイナスか検討の痕跡が全くないと感じた」と主張。
 
 そのうえで原告側弁護団の尋問に「県としてどうするべきか、住民に聴くべきだったし、住民に伝えるべきだった。県として、しっかり検討していれば国葬に参加しない判断になったと思う。参加は住民福祉に資するものでない。国からの一方的な指示に地方が従うことに危険性を感じた」と訴えた。

 原告側弁護団は年明け1月30日に最終準備書面を提出する。2月に結審の予定。奈良地裁が憲法判断にまで踏み込むのか、知事、議会議長の参列が国との間での一般的友好、信頼関係維持増進を図り、住民に貢献するものと判断するのか。行政法・地方自治法が専門分野の学者が法廷で証言するといった裁判は全国で係争中の国葬儀裁判の中でも異例であり、どのような判決が下されるのかが注目されている。(編集担当:森高龍二)