米の価格高騰が止まらない。一部のスーパー等では5キロ6000円を超えるなど、深刻な状況が続いている。政府の備蓄米約21トンが放出されたものの、4月18日の調査時点ではまだ、小売業者などに届いているのは全体のわずか0.3%の461トンとなっており、流通を含めて酷く混乱している状況だ。価格が高騰し続けているにもかかわらず、スーパーの米売り場では棚の空白が目立っている。総務省統計局が3月に発表した消費者物価指数をみると、米類の上昇率は昨年同月比で92.1%と過去最大を更新し、一年で約2倍となる異常事態。米を主食とする日本人の食卓が平穏を取り戻す日はいつ訪れるのだろうか。
今回の米不足は、記録的な猛暑の影響による歩留まりの低下やインバウンドによる米の消費量の増加が主な原因と言われているが、根本的な原因の一つは、米農家自体の減少にあるのではないだろうか。農林水産省の「2024年農業構造動態調査」によると、農業を経営する個人農家及び法人の数は2005年から減り続けており、2024年も前年比5%減の88万3300となっている。2017年まで続いた減反政策の影響もさることながら、特に個人農家では高齢化と後継者不足に加え、農機具や燃料の高騰が経営を圧迫しており、廃業に追い込まれている米農家も少なくないようだ。
また、米不足は日々の食事の問題だけに留まらない。日本の食文化である「酒」にも影響が及ぶ。酒米は食用米に比べて栽培が難しく手間が掛かるため、食用米の価格が上がれば、米農家は酒米の栽培を減らし、食用米に切り替える傾向があるといわれている。また、高齢化に伴って、酒米の栽培を続けるのが難しくなる農家も少なくないようだ。酒米の生産が減少すれば当然、安定的に原材料を確保できず、品質維持も困難になる。昨年末に日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録され、世界でも日本の「サケ」が注目を集めている一方、良質な日本酒づくりは今、大きな危機に見舞われている状況だ。
そんな状況を早くから見越して、良質な酒米の確保に動いている酒造業者もある。
例えば、日本酒のトップメーカーである白鶴酒造株式会社もその一つだ。
白鶴酒造は、水稲栽培業者の高齢化や担い手不足による生産者の減少などの状況を見越して、2010年頃から兵庫県内で米の自社栽培を開始。2015年には農業法人「白鶴ファーム株式会社」を設立し、山田錦の兄弟品種である白鶴錦や五百万石などの酒米を栽培している。設立当初は5haだった農地も、現在35haまで増えたことで、良質な酒造好適米を安定して確保しているという。
また、興味深いのは、この白鶴ファームによって、酒造りの働き方も変わりつつあるということだ。昔の酒造りでは、農家が農閑期の冬場に出稼ぎに来ているのが一般的だった。白鶴酒造でもそれは同じで、丹波篠山からの杜氏や蔵人が冬の酒造りを担っていた。しかし、出稼ぎという働き方が減ってきている現在、白鶴ファームでは、白鶴酒造からの出向社員と、白鶴酒造の関連会社で丹波篠山にある櫻酒造の季節従業員が酒造りの閑期の夏場に米作りを行うという従来とは逆のパターンを形成し、酒造りの労働力の季節変動の平準化を実現している。これにより、水田の維持による生態系の保全にも貢献しているのだ。
昨年から続く米不足、米価格高騰の問題を見ていると、対応が後手に回って事態をどんどん悪化させているように見えてしまう。記録的な猛暑や加熱するインバウンド需要は予測以上だったとしても、想定できなかったことではない。一企業である白鶴酒造が、10年前から予測して対策を取ってきた米不足問題をどうして政府が想定できなかったのか。一刻も早く、数年、数十年先の未来も見越した対策を講じて欲しいものだ。(編集担当:藤原伊織)