今回のニュースのポイント
G7財務相・中央銀行総裁会議は19日、重要鉱物サプライチェーンの強化や経済安全保障の連携拡大を打ち出した共同声明を公表しました。背景には、特定の国への供給依存や輸出規制リスク、非市場的な政策があります。AIや半導体、EV、データセンターなど次世代の産業は大量の重要鉱物を必要としており、G7は単なる「市場任せの自由貿易」ではなく、国家主導の経済政策による供給網構築へ大きく舵を切り始めています。
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これまで世界の持続的な経済成長を牽引してきた「自由貿易」という大前提が、いま国際政治と安全保障の波に洗われ、劇的な構造転換を迎えています。フランス・パリで2026年5月18日から19日にかけて開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議は、閉幕にあたり共同声明を公表しました。
今回の声明で大きな焦点となったのが、電気自動車(EV)や生成AI、半導体などの次世代産業に不可欠な「重要鉱物」のサプライチェーン(供給網)強化と、供給網寸断リスクへの対抗をはじめとする経済安全保障の連携拡大です。従来の「安く、効率的に調達する」という市場原理から、国家の関与によってリスクを分散する方針への移行が鮮明となっています。
G7がこれほどまでに重要鉱物の確保を国家の最優先課題として位置づける理由は、それらがデジタル社会およびグリーン移行における「現代の石油」だからです。
最先端の半導体製造や、EVの基幹部品であるリチウムイオン電池には、リチウム、ニッケル、コバルト、グラファイト、レアアース(希土類)といった重要鉱物が大量に必要とされます。さらに、生成AIの爆発的な普及に伴い、世界中で新設が進む巨大データセンターの電力インフラや通信網の拡張にも、これらの資源は不可欠です。重要鉱物の安定的確保の成否は、一企業の収益問題を超え、国家の産業競争力と経済の命運を直接左右する戦略的物資となっています。
しかし、これらの重要鉱物を巡るサプライチェーンは、現在極めて脆弱な構造にあります。G7が最も強い警戒感を示しているのが、採掘および「加工能力(精錬技術)」の多くが中国に一極集中しているという現実です。
特定の国が市場で圧倒的なシェアを握り、非市場的な政策や慣行によって価格支配権を行使することは、他国の産業をいつでも麻痺させられる地政学的リスクを意味します。実際に、過去に発動された輸出規制はグローバルなサプライチェーンを大きく揺るがしました。効率性とコストパフォーマンスのみを最優先し、「安ければどこから買っても良い」と捉えていた従来のグローバル化の時代は、事実上の終わりを迎えています。
この脆弱性を克服するため、G7が打ち出したのが「市場任せ」を脱し、政府や国際金融機関(MDBs)が主導して供給網を再構築する産業政策へのコミットメントです。
共同声明では、世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった多国間開発銀行による融資や投資の枠組みを活用し、特定の国への依存を脱却した、より強靱で多様な重要鉱物の持続可能なサプライチェーンを構築していく方針が明記されました。同志国間での共同調達や、官民が連携した資源開発、サプライチェーンの透明化といった、国家が経済活動に深く介入する「新しい資本主義」の色彩を帯びたアプローチが、今後の新たな国際標準となろうとしています。
この地政学的な変化は、最前線に立つ日本企業にも多大な影響を及ぼしています。自動車や電池、化学、通信、電力、さらには日本企業が強みを持つ半導体素材セクターにいたるまで、原材料の調達構造の転換が急務です。
多くの企業は、これまでの中国依存から脱却するため、資源を豊富に持つASEAN(東南アジア諸国連合)地域や北米、オーストラリアなどへの投資を加速させ、調達先の多角化(チャイナ・プラス・ワン)を急いでいます。しかし、新たな供給網の構築には莫大な初期投資と時間がかかるため、政府による財政支援や国際的な枠組みとの連動が、今後の企業の命運を握ることになります。
エネルギーや半導体、データ、通信、金融決済、そしてAIにいたるまで、現代のあらゆる経済活動は安全保障と切り離すことが不可能になりました。「経済政策=安全保障政策」という時代へ入りつつあります。
G7は、「自由貿易だけでは供給網を守れない」という認識を強めています。次世代産業の競争では、資源そのものが国家安全保障の一部となりつつあります。世界経済は今、「効率」よりも「レジリエンス(強靱性)」を最優先する新たな時代へ入り始めています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













