5Gは“単独整備”から転換へ ドコモ・KDDIが進める通信インフラ共同化

2026年05月28日 10:51

kddi_nr-1036_4541_img_01 (1)

KDDIとNTTドコモが共同開発した「5Gミリ波共用中継器」のイメージ図。1台の中継器で両社のミリ波通信を同時に中継し、エリア拡大や設備効率化を図る。(画像出典:KDDIニュースリリースより)

今回のニュースのポイント

KDDIとNTTドコモが発表した5Gミリ波の共用中継器の共同開発は、通信各社が自前でエリアを競う「単独整備」の限界とインフラ共同化への構造転換を象徴しています。直進性が高く遮蔽物に弱いミリ波の課題に対し、1台で両社の通信を同時に自律制御・中継する新技術は、設備投資や電力コスト抑制の重要技術です。AIや自動運転、さらに6G時代を見据えたデジタル道路工事とも言える通信網再整備の深層を検証します。

本文
 KDDIとNTTドコモが、5G(第5世代移動通信システム)の「ミリ波」エリアを効率的に拡大するための「共用中継器」を共同で開発し、今夏から東京の上野恩賜公園において共同での実証実験を開始すると発表したニュースは、通信インフラ戦略の転換点を示す動きという以上に、現代社会を支える通信インフラの整備思想において、根本的なパラダイムシフトが進みつつある現状を示しています。

 今回の発表の核心は、本来は市場で激しく競争する両社が、1台のハードウェアで双方のミリ波通信を同時に、かつ独立して中継できる設備共用へ踏み込んだ点にあります。これは一見すると、単なる局所的なコスト削減や技術的な融通策のようにも見えますが、その背景には、これまでの通信キャリアが長年重視してきた「自前主義」や「基地局の設置数競争」だけでは、次世代の高度情報化社会を単独で支えきれなくなりつつあるという、インフラ整備の構造的な限界が浮かび上がっています。

 そもそも5Gのポテンシャルを最大限に発揮し、超高速・大容量・低遅延という「理想の5G環境」を実現するための本命とされてきたのが、28ギガヘルツ(GHz)帯に代表される「ミリ波」と呼ばれる極めて高い周波数帯です。しかし、このミリ波は圧倒的な通信速度を誇る一方で、電波の波長が非常に短く「光」に近い性質を持つため、極めて直進性が高く、建物や樹木などの遮蔽物に遮られやすいほか、人混みや降雨といった環境変化によっても容易に電波が減衰・遮断されてしまうという、扱いが難しい物理的特性を抱えています。そのため、面的なサービスエリアを街中に構築しようとすれば、従来の4G時代とは比較にならないほど大量の基地局や中継設備を、目と鼻の先の距離に文字通り高密度に配置する必要があります。

 これは「理論上は極めて高性能」であっても、「現実の社会実装においては、莫大な設備投資や都市部における設置スペースの枯渇、さらには通信網全体の消費電力の激増という重い負担がのしかかる」という、複合的な整備コストの壁を各社に突きつけてきました。

 こうした環境下で今回ドコモとKDDIが選択したアプローチは、通信エリアや回線品質そのものを排他的な競争優位性とする従来の業界秩序を転換し、「インフラの基盤部分は共同で維持し、その上で提供されるサービスで競い合う」という、新しい協調領域の拡大に他なりません。単独でミリ波のネットワークを全国、あるいは主要都市部に張り巡らせることは、資材高騰やエネルギーコストの上昇が続く現在のマクロ経済環境下において投資効率を著しく悪化させる要因となります。今回の共同開発は、本来は競合するネットワーク同士が「競争しながらも、一部の物理的な土台は共同利用する」というハイブリッドなインフラ管理の仕組みへと移行していく、確かなシグナルとなっています。

 また、今回開発された共用中継器は、単に電波を等しく増幅して返すだけの受動的な共用設備にとどまらない点も技術的に特筆されます。周囲の建物や樹木の揺らぎ、あるいは人の移動といった都市空間の動的な環境変化を検知し、それぞれのキャリアの通信状況に応じて最適な中継ルートを「自律的に選択・自動調整する」という高度なインフラ制御技術が組み込まれています。これは、通信ネットワーク自体が周囲の物理環境に合わせて「自己最適化するシステム」へとインテリジェントに進化していることを意味しており、インフラの維持管理コストを劇的に引き下げるブレイクスルーとしての側面を併せ持っています。

 このようにキャリアが垣根を越えてデジタルインフラの再整備を急ぐ背景には、私たちの社会が「AIや自動運転、XR、スマートシティ」といった、一瞬の通信途絶や遅延が物理的なリスクや致命的な機会損失に直結する次世代のデータ社会へ突入しつつあるというタイムラインの要請が存在します。膨大なデータをリアルタイムに処理する分散型AIや、完全自動運転車が安全に都市を疾走するためには、街の隅々にまで張り巡らされた「見えない超低遅延のデジタル道路」が不可欠であり、今回のミリ波共用の動きは、まさにその次世代の基盤を敷設するための「道路工事」に他なりません。

 さらに、2030年代の導入が見込まれる次世代通信規格「6G」においては、ミリ波を遥かに凌ぐテラヘルツ帯など、さらに高周波で電波の届きにくい性質を持つ帯域の活用が確実視されています。今後の通信網において、今回培われる「自律制御型の中継技術」や「メッシュ型の共同通信インフラ」のノウハウは、今後の通信インフラ競争を左右する重要テーマとなっていく可能性が極めて高いと考えられます。

 5Gを巡るこれまでの議論は、往々にしてどのキャリアの通信速度が速いか、あるいは人口カバー率が何パーセントに達したかという、目に見える数字の競争ばかりに焦点が当たりがちでした。しかしその舞台裏では今、物理的な電波の限界とコストのリアリズムに向き合いながら、いかに効率的かつ強靭な通信網を社会に提供するかという、現実的なインフラ論が進行しています。大手2社によるミリ波共用中継器の共同開発という一歩は、日本の通信産業が、自社単独の網羅性に拘泥する時代に決別を告げ、共同で社会の基盤を支え合う新しい通信インフラ運営の時代へ足を踏み込んだことを象徴しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)