「私は騙されない」が一番危ない 総務省調査が映したネット時代の落とし穴

2026年07月15日 12:55

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総務省のICTリテラシー実態調査は、「自分は騙されない」という過信が、情報判断の落とし穴になり得ることを示しました。ディープフェイクを「見破れる」と考える人ほど、リテラシーテストで全問不正解となる割合が高いという結果も明らかに。

今回のニュースのポイント

総務省が公表したICTリテラシー実態調査は、インターネットやSNS上の偽・誤情報に対する利用者の認識と、実際の情報判断能力との間にある深刻な乖離を浮き彫りにしました。インターネットを利用する多くの人が「自分は騙されない」と考えがちですが、その自信こそが最大の落とし穴になり得ることが示されています。特にディープフェイクを「見破れる」と考えている人ほど、情報の真偽を見極めるリテラシーテストで全問不正解となる割合が高いというデータが明らかになりました。情報社会における最大のリスクは、知識の有無よりも「自分だけは大丈夫」という思い込みにあるようです。

本文
 あなたは、ディープフェイクを見破れる自信がありますか。

 SNSの投稿、動画配信サイトの映像、あるいはメッセンジャーアプリで送られてくるセンセーショナルなニュース。日頃からスマートフォンやパソコンを使いこなしている人なら誰しも、ネット上で「これは怪しい」「デマではないか」と直感し、真偽を疑った経験があるはずです。自分はネットの仕組みを理解しているし、騙されるような素人ではない。そう胸を張る人にこそ、突きつけられた現実があります。

 総務省が実施したICTリテラシーに関する実態調査では、全国の15歳以上の男女5,640名を対象に、実際の真偽判定能力を測定する5問のリテラシーテストを実施しました。その結果は注目すべきものでした。5問すべてに正解できた「全問正解者」の割合は、全体のわずか5.6%に留まりました。これに対し、1問も正解できなかった「全問不正解者」の割合は39.5%に達しています。日常的にインターネットを利用する人であっても、情報の正確な真偽を見極めることは極めて困難であることが調査結果として示されました。

 なかでも、今回の調査結果で最も意外であり、かつ注視すべきデータがあります。近年、画像生成AIや音声合成などの急速な普及に伴って懸念されている「ディープフェイク」について、「自分は見破ることができる(騙されると思わない)」と回答した層のデータです。この「見破る自信がある」と答えたグループにおけるリテラシーテストの正答率を調べたところ、全問不正解の割合が61.5%に達していることが明らかになりました。

 こうした過信や思い込みと情報判断との関連が、今回の調査で浮き彫りとなっています。総務省の報告書では、情報判断における「認知バイアス(無意識のうちに自分の都合の良い情報だけを信じてしまう考え方のくせ)」の影響が示されています。調査によると、認知バイアスを「知っている」と答えた割合は、偽・誤情報を拡散してしまった経験がある人(66.5%)の方が、経験がない人(52.3%)よりも高い傾向にありました。しかし、「自分自身にも認知バイアスがあるという実感(自覚)を持っている」人の割合をみると、拡散経験がない人(59.3%)の方が、拡散経験がある人(54.3%)よりも高かったのです。つまり、認知バイアスを単に言葉として知っているかという知識の有無よりも、「自分も偏った判断をしてしまうかもしれない」という謙虚な自覚があるかどうかの方が、適切な情報判断と拡散抑制に結びつきやすいという相関関係がうかがえます。

 では、偽情報に騙されないために、調査結果から見えてくるヒントは何なのでしょうか。調査が示す答えは、極めてシンプルです。それは、情報を目にしたときに「一度立ち止まる」という習慣です。SNSで気になる情報を見かけた際、投稿や拡散をする前に一度立ち止まる意向がある人ほど、実際のリテラシーテストでの正答率が高い傾向がみられました。実際に立ち止まって拡散をやめた人々がとった行動をみると、「WEB上で検索をした」(54.2%)、「ニュースの参照元を確認した」(44.9%)、「専門家がどのように言っているか確認した」(41.4%)という行動が上位を占めています。高度な解析ツールを使いこなす必要はありません。「拡散ボタン」を押す前に、一度立ち止まって自ら検索し、情報を確かめることこそが、強力な防壁となるのです。

 かつて、インターネットの黎明期におけるリテラシーとは、いかに欲しい情報を素早く見つけ出すかという「検索力」を意味していました。しかし、生成AIや巧妙なディープフェイク、そして拡散を煽るアルゴリズムが日常に溶け込んだ現代においては、リテラシーの定義そのものが変わりつつあります。今求められているのは、情報を無批判に受け入れたり過信したりすることではなく、「立ち止まる習慣」と「自らの思い込みを疑う姿勢」です。自分の能力を過信せず、一度立ち止まって出典や複数のソースを確認する基本動作こそが、AI時代の重要な情報リテラシーと言えそうです。

 総務省の調査は、ICTリテラシーとは単なるITスキルや操作の習熟度ではなく、「情報とどう向き合うか」という姿勢そのものであることを改めて示しました。自分は大丈夫という過信を捨て、自分にも偏見や思い込みがあると自覚すること。技術が進歩して情報が溢れる時代だからこそ、私たちに求められているのは、他者を「見抜く力」ではなく、まず自らの自信を「疑う力」なのかもしれません。実は、「見破れる」と答えた人ほど、リテラシーテストで全問不正解となる割合が高かったのです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)