今回のニュースのポイント
厚生労働省が29日発表した2026年3月末現在の「国民年金保険料の月次納付率」によると、最終的な納付状況を表す指標となる「3年経過納付率」(令和5年3月分保険料)は前年同期比0.2ポイント上昇の85.1%となり、改善傾向が続いていることが分かった。また、途中経過を示す「2年経過納付率」(令和6年3月分)は85.9%(同3.0ポイント上昇)、「1年経過納付率」(令和7年3月分)は83.6%を記録した。世間で語られがちな「年金離れ」のイメージとは異なり、保険料納付率は改善傾向が続いている。しかし、同日に公表された国勢調査速報では日本の人口減少が加速する現実も明らかになっており、年金制度の持続可能性を考える上では、保険料の未納問題だけでなく、現役世代そのものが減少する人口動態の構造変化も重要な論点となる。
本文
国内総生産(GDP)や国勢調査などのマクロ統計が経済の規模や社会の形を示すのに対し、年金の決済や納付に関する統計は、社会保障制度を巡る国民の行動実態を映し出しています。「若者を中心に年金を払わない人が増えている」「年金制度は崩壊の危機にある」といった言説は、メディアやSNS上でも頻繁に目にする一般的なイメージかもしれません。しかし、厚生労働省が公表した最新の国民年金保険料の納付状況は、そうした通説とは大きく異なる客観的なデータを提示しています。
令和8年3月末現在における最終的な納付状況を表す「3年経過納付率(令和5年3月分保険料)」は85.1%に達し、前年同期から0.2ポイントの改善を記録しました。数字の上では、対象となる保険料の8割以上が確実に納付されており、加入者の多くが保険料の納付義務を果たしている実態が浮き彫りとなっています。
今回の統計で注目すべきは、同じ対象月の保険料であっても、時間の経過とともに納付率が確実に上昇していくという時系列上の動向です。令和5年3月分の保険料を例にとると、1年経過時点(令和6年3月末現在)の納付率は81.7%にとどまっていました。しかし、これが2年経過時点(令和7年3月末現在)には84.8%へと上昇し、最終的な3年経過時点(令和8年3月末現在)には85.1%へと到達しています。国民年金の仕組みにおいて、保険料を徴収する権利は納付期限から2年を経過すると時効によって消滅しますが、後から納付するケースが一定数存在していることが、この数字の推移からうかがえます。当初の未納データだけを見て「制度の拒否」と捉えることはできず、当初は未納だった保険料が後から納付されている実態がうかがえます。
また、都道府県別で見た納付状況のデータからは、日本国内における地域ごとの経済的環境とも連動する、興味深い差異が観察されます。3年経過納付率(令和5年3月分)の全国上位をみると、島根県が93.0%と最も高く、次いで新潟県(92.8%)、富山県(92.3%)、山形県(91.7%)、秋田県(91.0%)、和歌山県(90.6%)と、日本海側や中山間地域を抱える地方都市が9割超の高い水準を並べています。これに対し、全国ワーストは大阪府の80.1%で、東京都が81.7%、沖縄県が82.1%、埼玉県が82.7%と、大都市圏や特定の地域が下位にとどまっている状況です。さらに東京都にいたっては、前年度比で0.2ポイントのマイナスを記録し、全国的な改善傾向の中で唯一の微減となっています。
この地域差の背景には、地域ごとの所得水準や生活コスト、雇用環境などが影響している可能性があるとみられます。実際に大阪府や沖縄県においては、令和6年3月分保険料の「2年経過納付率」(令和8年3月末現在=令和7年度末時点)がそれぞれ81.2%(対前年同期比3.8ポイント上昇)、80.7%(同4.5ポイント上昇)と大きく伸びています。こうした推移からも、後から納付するケースが一定数存在していることがうかがえます。
公的年金制度の持続可能性を巡っては、財政検証や将来的な財源不足といった課題が議論の対象となりやすい傾向があります。しかし、本調査に掲載されている過去からの推移グラフを確認すると、3年経過納付率はここ数年で83.8%から85.1%へと緩やかな上昇をみせており、2年経過や1年経過のラインも一貫して改善傾向が続いています。厚生労働省が定義する通り、この統計はあくまで「納付義務がどれだけ果たされているか」を見る指標であり、納付率については改善傾向が続いていることが確認できるというのが、統計データから読み取れる現状です。
一方で、年金制度の長期的な持続可能性を考える上では、保険料の未納問題に加え、制度を支える現役世代の人口動態そのものも極めて重要な論点となります。本日のもう一つの最重要指標である国勢調査速報では、日本の総人口の減少ペースが一段と加速し、全45道府県で人口が減少している厳しい少子高齢化の現実が提示されました。
日本の公的年金は、現役世代が納めた保険料がその時々の高齢者の年金給付に充てられる「賦課(ふか)方式」を基本としています。そのため、どれほど保険料の納付率が改善し、義務を果たす人の割合が9割や10割へと近づいたとしても、それを支える土台となる現役世代の人口そのものが減少してしまえば、制度全体の給付と負担のバランスを維持するためのマクロ的な難易度が高まることは避けられません。
2025年度の国民年金納付率統計は、加入者の多くが依然として堅調な割合で保険料を納付している実態を数値として示しました。しかし、同じ日に発表された国勢調査速報は、その支え手となる現役世代の人口が減少しつつあるという現実を告げています。年金制度の持続可能性を巡る議論においては、個人の未納率という変化に終始するのではなく、人口減少という日本社会全体の構造変化そのものに視点を据える必要があります。今後の年金制度を巡る議論では、未納率の動向に加え、人口減少や現役世代人口の推移も重要な論点となりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













