「安く運ぶ」が変わる 国交省が適正原価制度の議論をスタート

2026年07月14日 17:19

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トラック運送業を支える物流インフラ。国土交通省は「適正原価」制度の導入に向けた有識者検討会を開始し、持続可能な物流を支えるコストの考え方を議論する。

今回のニュースのポイント

国土交通省は7月17日に、第1回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催します。令和7年6月に成立・公布された改正トラック法で導入される「適正原価」制度に向けた議論が本格的に始まるもので、物流業界が持続的に事業を続けるために必要なコストの考え方や制度設計が検討されます。これまでの「より安く運ぶ」という価格競争から、物流を維持するために必要なコストを社会全体でどう考えるかという、新たな制度づくりが始まろうとしています。

本文
 国内の物流網を取り巻く環境が厳しさを増すなか、貨物運送の価格形成に対する国の関与とあり方が大きな転換点を迎えようとしています。国土交通省は7月14日、同月17日に第1回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催することを公表しました。今回の有識者検討会は、令和7年6月に成立・公布された「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(改正トラック法)において導入が盛り込まれた「適正原価」制度の具体化に向けた実質的な第一歩となります。検討会では、トラック運送業を取り巻く現状認識を踏まえ、適正原価を適切に設定するための具体的な論点整理や今後の方向性について、本格的な議論が交わされる予定です。

 今回の制度において注目すべきなのは、荷主との交渉で決まる個別の「運賃」そのものを議論するのではなく、運送に必要な「原価」の算定方法に焦点を当てている点です。運賃は個々の取引契約によって左右されるものですが、その土台となるべき安全かつ継続的に運送サービスを提供するために必要なコストを明確に定義しようとするのが今回の試みです。具体的には、燃料費や人件費、車両の維持整備費、保険料など、物流サービスを維持する上で不可欠な原価要素をどのように整理し、どのような算定ルールとして制度設計するかという点が議論の中核となります。国が直接価格を決定するのではなく、価格決定の客観的な判断基準を整えることが目的といえます。

 こうした国を挙げた制度設計が動き出す背景には、ドライバー不足の深刻化や、従来の商慣行による価格競争が物流インフラの持続可能性を脅かしているという強い危機感があります。これまでトラック運送業界では、荷主との力関係や価格競争によって、事業の継続に必要なコストを適正に価格へと反映できない構造的な課題が指摘されてきました。結果として人手不足の悪化や設備投資の停滞を招き、物流サービスの維持自体が困難になる懸念が生じています。物流の「2024年問題」を契機に、単なる効率化の要請から、持続可能な物流網の維持に必要なコストを社会全体でどのように分担するかという本質的なコスト構造の再評価へと、議論の次元が移りつつあることを示しています。

 この「適正原価」の影響は、運送事業者内にとどまらず、貨物を預ける荷主企業や、他の運送事業者へ実務を委託する運送会社にも直接的に波及することになります。法制度上、トラック運送事業者が自ら貨物を運送する場合だけでなく、他のトラック運送事業者などに運送を委託する際にも、国土交通大臣が定める適正原価を継続して下回らないようにすることが求められるためです。この規定については、法律の公布から3年以内に施行されることが決まっています。検討会には国土交通省のみならず、経済産業省や農林水産省などの関係省庁に加え、学識経験者や関係団体が幅広く参画しており、サプライチェーン全体を包括する産業界全体の課題として精緻な制度設計が進められる体制となっています。

 長年にわたり、国内の物流は「より安く、より効率的に運ぶ」というデフレ型の手法に依存して発展してきました。しかし、物価や燃料費の上昇に加え、深刻な構造的人手不足が常態化するなか、これまでの考え方だけで日本全体の物流システムを維持することは困難になりつつあります。今回始まる適正原価の議論は、物流を持続可能なサービスとして社会全体で下支えするための新たなルール形成といえます。今後の焦点は、有識者検討会においてどのような算定式や原価項目が合意形成されるのか、そしてそれが実際の契約実務にどのような影響を与え、適正な需給バランスと価格転嫁を促していくのか、その具体的な制度運用の行方に移ることになりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)