技術は囲い込む時代ではない 三菱電機が知財を「製品」に変える戦略

2026年07月15日 14:03

今回のニュースのポイント

三菱電機は、腐食検知に用いる金属腐食センサー技術を電子部品メーカーのKOAへライセンス供与し、同技術を活用した硫化反応チップ「SK73シリーズ」の一般販売が始まったと発表しました。注目すべきは新製品そのものではなく、ライセンス供与を通じて自社技術の社外活用を広げ、市場全体へ展開する戦略です。知的財産を自社製品の競争力として囲い込むのではなく、パートナー企業との共創を通じて新たな市場を創出する――日本企業の知財活用は、新たな段階へ入りつつあります。

本文
 今回の発表は、三菱電機が自社で開発した金属腐食センサー技術を、電子部品の開発・製造・販売に強みを持つKOAへライセンス供与したことにあります。従来、この技術は主に自社製品で活用され、自社製品の差別化や付加価値向上に生かされてきました。しかし今回の契約により、他社がその技術を部品として製品化し、市場へ広く一般販売する仕組みへと移行しました。これは、完成品という物理的なハードウェアを売るだけでなく、自社が培った知的財産(技術)そのものをビジネスの直接的な商材へと変えるアプローチと言えます。

 協業の相手方にKOAが選ばれた背景には、両社の得意分野を掛け合わせる共創による明確な役割分担があります。三菱電機は重電やFA(ファクトリーオートメーション)などの産業機器を広く手がけるシステムメーカーである一方、KOAは抵抗器をはじめとする微小な電子部品の精密な量産・販売体制に強みを持っています。三菱電機が自ら電子部品メーカーとして一から量産ラインやグローバルな販売網を構築するよりも、すでに強固なサプライチェーンを持つKOAと組む方が、技術の普及スピードは格段に上がります。自社にないリソースを持つパートナーに製造と販売を委ねることで、技術の普及を加速することを目指した取り組みです。

 日本の製造業において、知的財産は長年にわたり、他社による模倣を防ぎ、自社製品の独占的優位性を維持するための「防衛手段(壁)」として扱われてきました。しかし近年は、特許などの知的財産を単に守るだけの資産から、ライセンスや外部との共同開発を通じてオープンに活用し、積極的に外部収益へ結び付ける動きが広がっています。三菱電機においても、2021年10月から「Open Technology Bank(オープンテクノロジーバンク)」と呼ばれる知財活用の取り組みを開始しています。自社が保有する豊富な技術資産を公開・提供し、社外パートナーとの連携を促進するこのプラットフォームは、まさに「囲い込み」から「技術の活用と共創」への意識転換を象徴しています。

 このライセンス戦略により、三菱電機が得るメリットは単なるロイヤルティ(ライセンス料)収入にとどまりません。技術が他社の手によって広く市場に普及することは、その技術が業界内での利用を加速させる重要な足がかりとなります。今回一般販売が始まった腐食検知技術が、自社製品の枠を超えて国内外の自動車、産業機器、精密機械、通信設備など多岐にわたる分野に実装されるようになれば、普及が進むことで市場でさらに広く活用される可能性があります。規格や仕組みの活用範囲を広げることによる中長期的な市場でのポジションの確保こそが、こうした協調領域を広げる戦略 の狙いと言えます。

 今回実施されたライセンス供与は、単発の契約ではなく、三菱電機が知的財産を起点に共創を推進する「Open Technology Bank」の戦略的な一環として位置付けられています。2021年から推進するこのプラットフォームは、同社が保有する豊富な技術資産を社外へ公開・提供し、パートナー企業が持つ優れた技術やアイデアとの「掛け算」によって、新たな事業やサステナビリティに資する価値を創出することを目的とした本格的な仕組みです。技術を自前主義で抱え込むのではなく、必要とする他社へ橋渡しをすることで新たなビジネスを生み出していくオープンイノベーションの手法であり、知的財産戦略そのものがエコシステムの創出へと軸足を移し始めていることを示しています。

 かつて日本の製造業を牽引した「ものづくり企業」は、完成品を組み立てて販売するだけのビジネスモデルから、技術や知財を社会へ展開する企業へと姿を変えつつあります。製品の機能や価格のみで競う従来の製品競争のレイヤーから、知的財産、ソフトウェア、そして技術ライセンスの網の目をどう広げるかというバリューチェーンを巡る競争へと、企業の価値を左右するルールが変化しています。今回の自社保有技術のライセンス展開は、これからの日本企業が知財をどのように活用し、共創を通じて市場全体を育てていくべきかを示す、極めて実務的な参考事例となりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)