44社で挑む国産AI 日本企業がマルチモーダル基盤開発へ動く

2026年07月17日 07:38

マルチモーダル基盤

44社による産業横断の共創体制のもと、国産マルチモーダルAI基盤の開発を通じて「実世界ネイティブAI」の実現を目指す、日本のAI戦略をイメージしたもの。(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

ソニーグループ、ソフトバンク、日本電気(NEC)、本田技研工業(Honda)などを中核とする44社が、国産マルチモーダル基盤モデルの開発に向けて具体的な取り組みを始めました。研究開発を担うNoetraは、産業技術総合研究所(産総研)やPreferred Networksなどとも連携し、2026年度から推論基盤モデル、2028年度には言語・画像・動画・音声を統合的に扱うオムニモーダル基盤モデル、2030年度には「実世界ネイティブAI」の実現を目指すロードマップを示しました。一社主導ではなく産業横断で基盤を築く独自のアプローチを選択したことが、今回の特徴といえます。

本文
 今回の国産AI開発プロジェクトにおける特徴は、単一の巨大IT企業による個別開発ではなく、日本の産業界が横断的に結集した資本参加を伴う開発体制が構築された点にあります。プロジェクトの中核を担うソニーグループ、ソフトバンク、NEC、Hondaの4社をはじめ、旭化成や鹿島建設、川崎重工業、日本製鉄など、製造業、通信、金融、建設、エネルギー、素材にいたる多様な分野から合計44社が出資を行いました。単なる業務提携にとどまらない強固な協力体制のもと、公的研究機関である産総研や、先端AI開発を手掛けるPreferred Networksなどから技術者が参画する研究開発体制が組まれており、国内の知見を統合してAI基盤の研究開発を進める体制が整えられています。

 開発の対象として据えられているのは、テキストデータのみを処理する従来の大規模言語モデル(LLM)にとどまりません。公表されたロードマップによると、まず2026年度より論理推論や指示遂行などの能力を備えた推論基盤モデルを構築し、続く2028年度には言語や画像、動画、音声を横断的かつ統合的に処理できるオムニモーダル基盤モデルの開発へと段階的に移行する計画です。その先の2030年度には、空間認識などの物理特性までをも理解し、現実世界での運用を前提とした「実世界ネイティブAI」の実現を目指しています。このように、画面上の処理能力を高めるだけでなく、現実世界で活用されるマルチモーダルAIの確立を明確な目標として掲げています。

 米国ではOpenAIやGoogleなどが市場を牽引し、中国でも巨大なIT企業が主導する形でAI開発が展開されています。これに対し、今回日本側で選択されたのは、産業横断型の「共創モデル」というアプローチです。自動車、製造、半導体、通信、金融など、異なるセクターの企業がそれぞれ保有する良質な現場データや技術的知見を初期段階から持ち寄ることで、AIモデルの実用性を高める方法をとっています。この戦略は、AIモデルの性能だけで競うのではなく、日本の強みである「ものづくり」や「現場」のデータをAIの学習基盤そのものに反映させ、産業分野での実用性を高める試みと位置づけられます。

 こうした「フィジカルAI」や「実世界ネイティブAI」を志向する動きは、現在の日本の産業やインフラを巡る一連の流れとも重なり合っています。文章の生成や対話にとどまっていたAI技術は、ロボット、モビリティ、工場、あるいは社会インフラなど、物理空間において人間と安全に協働する段階へと進みつつあります。前日には総務省がNVIDIAとの間で次世代通信規格である6GやAI RAN分野での協力意向を示したばかりです。これらはそれぞれ別個に発表された取り組みではあるものの、結果として現在の日本では、通信基盤とAI計算基盤の整備が官民の両面から並行して進みつつあることがうかがえます。

 AIを巡るグローバルな競争は、単なるモデルの処理性能を競う段階から、実際の社会実装や産業実装をいかに安定的かつ安全に支えるかという産業基盤の確立へと広がりを見せています。Noetraは2027年4月に、NVIDIAの最新GPUである「NVIDIA Rubin GPU」を約2万7500基搭載した大規模なAI計算基盤の構築を開始し、2028年6月からの稼働を計画しています。今後の産業界における展開においては、単一のAIモデルの性能だけではなく、最先端の計算基盤、次世代の通信インフラ、各社が保有する現場データや実装ノウハウをどれだけ効果的に活用できるかという方向性が示されたといえます。

 44社が結集して始動した国産マルチモーダル基盤モデルの開発は、一企業による技術開発にとどまらず、日本の主要産業が手を取り合って次世代の共通インフラを構築する新たな試みです。言語、画像、動画、音声を横断的に統合し、最終的に「実世界ネイティブAI」を目指すロードマップは、AI技術が物理社会のインフラとして深く組み込まれていく新時代を捉えた設計といえます。生成AIの次のステージにおける展開は、ソフトウェア単体ではなく、それを支える産業基盤や通信インフラを含めた総合力が重要になります。この日本型の共創モデルが、世界のAI市場でどのような存在感を示せるかが、今後の重要な注目点となる見通しです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)