ファブレス化が浸透しつつある日本、半導体以外こそ最適か

2012年11月19日 11:00

 1980年代以降、アメリカのシリコンバレーを中心として半導体メーカーの間で広まったファブレス業態。自社では開発と販売のみを行い、製造を他社に委ねるこの業態は、製造設備費用を抑制することが出来る。半導体業界は製品のサイクルが短く、常に最先端の設備を保持するために膨大な製造設備費用が必要となるため、多くの企業が採用するに至ったものである。しかし、このメリットを享受できるのは半導体業界だけではない。日本でも多くの業界のトップ企業がファブレス経営を採用し、厳しい環境下でも比較的健全な状況にある。

 1975年の創業以来、ファブレス形態での経営を行っているダイドードリンコは、業界再編や低価格化など販売競争が激化する厳しい飲料業界において、第2四半期連結累計期間の売上高こそ前年同期比4.1%減の704億400万円となったものの、営業利益は同21.4%増の46億2500万円、経常利益も同29.1%増の45億3200万円、四半期純利益同247.6%増の25億8800万円となっている。また、ファブレス化とまでは行かないものの「OEM生産」を進める企業も増えているようで、同社の飲料受託製造部門である子会社の大同薬品工業は前年同期比20.2%増の55億5200万円と、売上高を急増させている。

 また、「創造的デザイン」「信頼される品質」「適正な市場価格」の「サンゲツ三則」を掲げるインテリアメーカーのサンゲツも、商品ごとに最適のメーカーと提携することができ、品質とコスト面で最も優れた商品を生み出すことのできるファブレス経営が功を奏している企業の一つであろう。同社の第1四半期連結累計期間業績は、売上高で前年同期比11.5%増の298億300万円、営業利益も同13.8%増の14億5600万円と堅調な結果を残している。

 さらに、日本を代表するファブレス企業と言えば任天堂であろう。同社の大ヒット商品であるファミコンは、部品自体に最高性能を求めないだけでなく、自社で製造を行わず、その部品を作る各企業に量産を保証する代わりに値段を極限まで下げて製造してもらう形を採用して商品の低価格化を実現し、爆発的普及に繋げたという。2012年第2四半期の決算においても、売上高は前年同期比6.8%減ではあるものの売上総利益は同38.5%増となっている。

 ファブレス経営には、少なくないメリットがある一方、生産過程でのコストダウンのメリットを受けられない、生産過程でのノウハウが得られないなどのデメリットが指摘されている。中でも、機密漏えいのリスクはもっとも大きなリスクと言えるであろう。となると、日本においては、高い技術力が生命線となる半導体メーカーには不向きであり、上記のようなインテリア・飲料・最高性能を求めない部品などを扱う企業こそ導入を進めるべき業態と言えるのではないだろうか。