アナログ時代からデジタルの時代への本格的な移行とともに、プロモーションメディアの形も徐々に変化を遂げてきた。そんな次々に登場する新たな広告コミュニケーションツールの中でも、効果的なアプローチ手段として大きな期待を寄せられているのが「デジタルサイネージ」だ。デジタルサイネージとは、平面ディスプレイなどに映像や情報を流す、いわゆる「電子看板」。ロケーションに自由度があるうえ、動きのあるビジュアルでよりダイレクトに見る側に情報を繰り返しPRできるというというメリットがある。しかし、大型商業施設やホテル、駅などでの導入は進んでいるようだが、そこから先へは普及と呼べる段階にまでは至っていないようだ。
その原因としてまず挙げられるのが導入にかかるコストの問題、つまりインフラの部分だ。徐々に液晶ディスプレイの低価格化などは進んでおり、出始めた頃に比べてハードルは低くなってきているのは確かだが、まだまだ導入コストに見合った効果が得られるのかというところの不安を払拭する程の決め手がなく、裾野を広げられていない状況だ。もうひとつの理由は、やはりソフト面の問題で、どのようなターゲットに向けて、コンテンツを作り、発信していくかというところで、明確なアプローチの仕方を模索している事業者も多いのではないだろうか。しかし、そのような課題をクリアする新たな動きも最近になって出始めている。
先日、医療分野におけるコンサルティング事業などを展開する医療情報基盤(廣済堂<7868>グループ)が、日本初の医療従業者を対象にしたデジタルサイネージ事業を本格的にスタートさせた。この新たなプロジェクトは、同社がデジタルサイネージ機器を病院に設置し、院内の業務情報に加え、医療関連企業や一般企業などのPR情報も配信していくというもので、デジタルサイネージというメディアを使った新しい試みとして注目を集めている。まずポイントとなるのは、デジタルサイネージを設置するロケーションを300床以上のベッドを持つ病院に限定しているところだ。大きな病院ともなれば、医師や看護師、事務職員など携わる人が多く、スタッフ間の情報共有が困難になりがちだが、このデジタルサイネージシステムを使えば、院内の至るところで重要な情報や資料を目にすることができ、結果的に病院の効率的な運営につながることも期待できる。実際にこのプロジェクトが公式に発表されてから、運営を行う医療情報基盤には全国の病院から問い合わせが寄せられているという。
また、広告枠を購入するクライアントとしては、医療従事者に対し、ダイレクトに自らの商品やサービスを訴求できるというメリットがある。大病院で働く医療スタッフはあまりにも多忙なため、医療施設や医療従事者を対象としている企業サイドとしてはアプローチすることさえ難しい状況だ。しかし、病院に設置されたデジタルサイネージの広告枠を利用すれば、病院情報の間に、多くの医療従事者に対し自社の訴求したい情報を映像として自然な形で流すことができるというわけだ。可処分所得が多いとされる医療従事者に向けてピンポイントに訴求できる点で広告を出す側としては大きな効果が期待できるだろう。こちらも実際に、製薬会社、医療機器会社をはじめ、不動産会社や自動車メーカーまで多様な業種から問い合わせが増え始めているという。
最近では、デジタルサイネージを使った取組みにも工夫が見られるようになってきたが、広告媒体としては、まだまだ発展途上のツールと言わざるを得ない。これまでは、不特定多数の人々に対して、視覚的な効果を使い情報を一方的に流すケースが主流だったが、これからは上記のビジネスモデルのようにターゲットをよりセグメントし、効率的に訴求するための手段として活用されるケースがもっと増えてくれば、デジタルサイネージという広告媒体が持つ可能性も膨らんでくるのではないだろうか。(編集担当:北尾準)