企業が株主や社債保有者に対して行うIR活動は、今やすっかり一般の人たちの間でも浸透している。上場企業各社は、企業としての取り組みや姿勢を投資家たちにより理解してもらうため、ホームページ上のIR活動に関する専門のコンテンツをリニューアルしたり、より分かりやすい冊子を作ったりと、積極的なIR活動に余念がない。従来は、低迷する株価対策が本来の目的のものであったが、近年では、安定株主作りのためのIR活動を重視し、株主、特に個人投資家に重点を置いて、経営方針や成長戦略、増配などをアピールする企業が増えてきているようだ。ひと昔前までは静かなる安定株主だった個人株主からも、総会では意見や主張が活発に出るといったケースも少なくない。経営者は個人株主の目を意識し、今後の業績向上策や株主配分についての説明責任を求められている。
現在、自社の見えない価値をどのように伝えるかという点で模索し、独自の手法でIR活動を展開している企業も増加しているという。例えば、リンクアンドモチベーション <2170> は、「より本質的に会社を知ってもらうために」という話し合いを社内で重ねた結果、会社の財産である社員やオフィスを直接見てもらおうと顧客・株主・取引先・内定者・社員の家族・知人といった500名を超えるステークホルダーを集めるといったユニークなIR活動を展開している。
一方、飲料メーカーのダイドードリンコ <2590> は、2007年以降、定期的に決算発表直後の個人投資家向け説明会を行っており、先日の11月26日にも、広島で説明会を開催。年に4回、経営トップである高松社長自らが国内各地に足を運び、同社の基本的な考え方、「ダイドードリンコの強みと特徴」、そして決算の概要と今後の見通しについてなどを説明し、参加者からの意見や質問にも直接答えるなど、ファン株主作りの一環として地道な活動を続けている。
また、同じ会場で上場企業の経営トップが順番に個人投資家向けにIRプレゼンテーションを行うという試みも増えてきているようだ。12月4日と18日には、カプコン <9697> やティーガイア <3738> 、サイバーエージェンシー <4751> 、ヒューリック <3265> などの上場企業経営トップによる説明会が東京の日経ホールにて実施される予定となっている。
長引く不況の中、正確・公平・迅速かつ広範な情報開示を個人株主・個人投資家にするリレーションに重点を置くことが、最近のIR活動の傾向となっているようだ。個人でも、様々なところから企業情報が入手しやすくなった今、企業としては本来の企業価値を理解してもらい、安定株主をどれだけ確保できるかが、強固な経営基盤を築くための重要なファクターとなりそうだ。