念願だった戸建住宅の購入を決め、どういった家を建てるのかを考えた時、建物だけでなく、どんな庭を作るのかも大きな関心事の一つ。最近では、自然志向や環境意識の高まりから庭に対するこだわりや憧れを持つ人も多く、男性なら「友人を招いてウッドデッキでバーベキューをしたい」、女性なら「ガーデニングで花を育てて、季節感のある生活を送りたい」、といった動機をもとにしたそれぞれの庭を思い描いている人も多いだろう。
そういった様々な庭の楽しみ方の中で、ここ数年、家庭菜園が大きな注目を集めている。住宅大手の積水ハウス<1928>が「生活者の本音に迫る」をコンセプトにして発行している冊子「データぱる」の最新号によると、2009年における家庭菜園の実施状況は53.2%(n=1141)と、半数を超える値を記録している。同年のガーデニングの実施状況は82.8%(n=583)と、こちらには及ばないが、「(家庭菜園を)現在はしていないが、してみたい」と合わせると89.0%と、家庭菜園が広く認知され、興味を集めているということが分かる。さらに、2004年における家庭菜園の実施状況は23.2%(n=629)となっており、わずか5年で大きく伸びているという点も見逃せない。それを裏付けるように、2007年に99億円だった「家庭菜園向けの野菜苗・果樹苗」の市場規模が2008年には115億円になっているなど、家庭菜園関連の市場も徐々に拡大している。
家庭菜園ブームが拡大している理由として同誌は、自宅で野菜を作って食卓に並べることによる食費の節約や、育てるプロセスや収穫に対する喜び、そして食の安全への関心の高まりといった点などを列挙しているが、中でも大きな要素として近隣住民とのコミュニケーションが図れる点を挙げている。家庭菜園を実施している人に対するアンケート(n=393、複数回答)では、家庭菜園がきっかけで変化したこととして、「旬の野菜や季節を意識するようになった」(70.0%)に次いで、「近所や知人とのコミュニケーションが増えた」という回答は35.9%と、2番目に多い。
その要因としては、昨今退職期を迎えた団塊の世代が、セカンドライフの過ごし方として家庭菜園を始めているということも挙げられる。先述の「家庭菜園がきっかけで変化したこと」について、60代の男性(n=28)では50.0%の人が「近所や知人とのコミュニケーションが増えた」と回答。さらに、全体の約60%が答えた「我が家で収穫した野菜や果物を近所におすそ分けしている」という回答にも、60代の男性では約90%の人が当てはまった。こういったアンケート結果から、退職後に積極的に新しいことを始めている団塊の世代が、近隣住民や知人とのコミュニケーションを図る一つの方法として家庭菜園を取り入れているということがうかがえる。
そういったことから、昨今危惧されている近隣住民同士のコミュニケーションの喪失に対し、家庭菜園が大きな役割を果たしており、「データぱる」を発行する積水ハウスが街づくりで重視している”近隣コミュニティの育成”に一役買っているということができる。今後は、戸建住宅の購入を検討している人々のモチベーションとしてだけでなく、住み始めてからの近隣住民同士のつながりを含めた街づくりの一環として、家庭菜園をはじめとした庭全体の使いこなし方に関するソフト、ハードの両面からの積極的な提案が重要になってくるだろう。
(編集担当:上地智)