カプサイシン、誤嚥性肺炎への効果が期待

2010年08月09日 11:00

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厚生労働省より発表された70歳以上の年間死亡者数のデータによると、肺炎が原因で死亡した高齢者は10万人を占める。

 昨今は医療の発達が著しく、以前では完治が難しいとされていた様々な難病の治癒が可能となっている。しかしそれでもまだ、不治の病とされるものや手の施しようのない症状の病気が多く存在するのも現実だ。現在、日本の死因別死者数は1位が悪性新生物(ガン)、2位が心疾患、3位が脳血管疾患、4位が肺炎となっている。特に4位の肺炎はその約97%が65歳以上の高齢者であるが、その多くが飲み物を飲み下す能力である嚥下反射(えんげはんしゃ)の衰えから生じる『誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)』であることはこれまであまり知られていなかった。しかし近年では俳優の山城新伍氏やプロレスラーのラッシャー木村氏などの死因が誤嚥性肺炎と公表されており、その名は一般的になりつつあると言える。

 誤嚥性肺炎には、人体がもつ嚥下反射という機能が大きな関わりをもっている。嚥下反射とは、口から入った食物を正しく飲み込み、胃に送り込む働きのこと。この嚥下反射の機能が衰えると、スムーズに食物や唾液を飲み込む事が難しくなり、誤って食物や唾液が肺に入ることが起こりえる。その際、一緒に雑菌が肺に入って引き起こされる肺炎を誤嚥性肺炎という。せき込む、発熱などの肺炎の症状自体は抗生物質等で抑える処置が取られるが、嚥下反射の機能が改善しない限り、繰り返し肺炎を発症してしまう恐れがある。

 嚥下反射が衰える原因のひとつとして、65歳以上の高齢者の半数以上が抱える脳血管障害があげられる。脳血管障害が生じると神経伝達物質であるサブタンスPの濃度が減少し、そのことにより嚥下反射の機能が衰えるといわれている。東北大学医学部では古くから誤嚥性肺炎の治療法を研究しており、サブスタンスPの濃度を上昇させる医薬品の開発を進めてきたが、高齢者に対しては副作用などの負担も大きくまだまだ課題が多い。

 そこで東北大学医学部は山田養蜂場と共同で、医薬品ではなく身体に安全な食品素材を用いた研究を開始。唐辛子成分のカプサイシンが、サブスタンスPの分泌を促し、衰えた嚥下反射を改善することを明らかにした。これらを踏まえ、カプサイシンを含有した食品で、老人福祉施設の高齢者を対象に臨床試験を行ったところ、同食品を長期間に渡り摂取した高齢者の嚥下反射がほぼ正常に近くなるという結果が得られた。これらの結果から同社は、グループ会社のミコーよりカプサイシン含有のトローチとフィルムを業界で初めて発売することを決定したという。

 嚥下反射の改善は誤嚥性肺炎の予防のみならず、高齢者のQOL向上や、食事の介護に携わる介護者の精神的ストレスや負担の軽減が期待されている。高齢者の人口が増え続け、医療費の高騰が叫ばれる現在において、高齢医療は大きな課題であるといえる。同製品のような新たな製品の開発も、課題解決へ向けた一手となり得るだろう。
(編集担当:山下紗季)