自動二輪車の歴史を語るとき、避けては通れないのがヤマハ発動機 <7272> の存在だ。移動手段や運搬手段に過ぎなかった二輪車に、競技性や遊びの要素を取り入れ、乗り物としての新たな可能性と価値を創造してきた。そんな、新しいことに果敢にチャレンジしていく姿勢はファンの共感を得、「YAMAHA」は世界ブランドとして確固たる地位を築き上げてきたのだ。
ヤマハの挑戦の歴史は、1955年に発表され、赤とんぼの愛称で親しまれたモーターサイクルの名車「YA1」から始まった。1973年には、通常リアのスイングアームに付いているショックアブソーバーを1本にし、車体の中心のタンク下に隠れスイングアームと連結する画期的なモノクロス・サスペンションを開発。ジャンピングスポットでの速さが際立っていたため、当時は「空飛ぶサスペンション」と呼ばれ話題となった。1997年には、パワフルかつ軽量な4ストロークモトクロッサーを開発。レースにて、その圧倒的な実力を存分に見せつけた。時代時代に革新的なモデルを発表し、ファンを驚かせたうえ、世界的な競技レベルにおいても最高の結果を出す。ヤマハには非常識を常識に変えてしまうほどの高い技術力があったのだ。
そして、2009年、ヤマハはそれまでの既成概念を覆すモトクロッサー「YZ450F」を発表し、またもやファンを驚かせた。同モデルは、フューエルインジェクション(FI)を初めて搭載し、シリンダーは後傾、吸気は前方からストレートという効率的かつ画期的なエンジンレイアウトを採用。ハイレベルなエンジンの特性やコーナリング性能など機能性の高さへの追求はもちろん、細部にわたって洗練されたデザインで、独自の美しさを表現している。この画期的なモトクロッサーは、発表と同時にあらゆるメディアでも取り上げられ、大きな話題となった。
この革新的なマシンの開発を担当したヤマハ発動機の櫻井氏は「より直線的な吸排気経路を確保し、充填効率を高めるために、このようなレイアウトを考えました。もちろんスタイルの美しさにもこだわってデザインにも力を入れています。このYZ450Fをきっかけにオフロードバイクから離れていた方々が再びコースに戻ってきているというような話を聞いたりすると、苦労して開発してよかったと強く感じます。新しい事への挑戦をバックアップしてくれた会社に対しても感謝しています」とコメントしている。”感動創造”という企業理念のもと乗り物の楽しさを人々に与えてきたヤマハ発動機には、創業から半世紀以上たった現在においても、新しいことに果敢に挑戦するスピリットが社員一人一人に脈々と受け継がれているようだ。
欧米では、人気の高いモトクロスは、まだ日本ではそれほどメジャーとは言えない。しかし、国内の競技人口は増え続けており、各地域に整備された気軽に参加できるコースもたくさんあるようだ。この革新的オフロードマシンの存在が、静かなブームを巻き起こし、二輪車の新たな可能性を切り開こうとしている。
(編集担当:北尾準)